だからがんばれた
「今日の夕食は餃子か。でも、いつものと匂いが違うね。なんか、懐かしい感じがする」
カリナが夕食の用意をしている時にはミコナも気付いていました。餃子を焼いていることは。
しかも、これまでのと比べると匂いが強い。しかも、なんだかずっと前に嗅いだことのあるような匂い。するとウルが、
「そうだね。<ママの餃子>だからね」
と、ミコナに告げます。
その言葉にミコナはハッとなって、
「そうか……ママの……」
呟きました。途端に、ぱあっと頭に蘇る光景。ママが運んでくる餃子を、ハカセがもりもりと食べてる姿。そんなハカセをママが嬉しそうに見ている。
「……」
そして、ミコナの目に光るものが。
涙でした。涙が溢れてきて。
「ママ……」
そこに、ハカセも研究室から出てきて、泣きじゃくるミコナを抱き締めました。
「ミコナ……よくがんばったね……よくがんばった……」
優しく頭を撫でながらハカセがそう口にすると、
「あああああ~っ!」
って、声を上げて、ミコナが……
ハカセやカリナを困らせたくなくてずっと我慢してきたものが、自分でも気付かないように押し込めてきたものが、込み上げて、溢れて、止まらなくなってしまったのです。
そう。ミコナは、がんばっていた。がんばっていたんです。ママが病気で入院した時から。その時は、ママやハカセを困らせたくなくて……
ママが亡くなった時も、泣いたのは少しだけ。ハカセが、
「ママはいつか帰ってくる。亡くなった人の魂は帰ってこられるんだ。ちょっと時間は掛かるけどね……だからそれまで、お父さんと一緒にがんばろう……」
そう言ってくれたから。だからミコナはがんばることにした。ママをがっかりさせたくなかったから。
だからがんばれた。
ただ、帰ってきたママは<五つのかぷせるあにまる>に分かれてしまって、確かにママの面影を感じるんですけど、でもやっぱり、正直言ってあまり実感はなかったんです。
それが、ハカセが大好きなママの餃子の匂いで、ママがいた頃のことがはっきりと思い出されて……
そのきっかけが<餃子の匂い>というのが、いかにもこの家らしいところですけどね。




