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懐柔されてなるものか
「……」
いつもは<嫌なこと>が終わると、縄張りに帰ることができました。なのに今回はいつまで経ってもその様子がありません。
なので猫のルリアも、クローゼットの中に隠れたまま出てこようとしません。唯一、仲間だと認めてる人間も戻ってきません。
帰ってこないのはいつものことですけど、こんなところに置き去りにというのは納得できません。
仕方なく、置かれたエサを少しずつ、周りを警戒しながら食べました。
でもしばらくそうしていると帰ってきて、猫のルリアが隠れているところを覗き込んで、
「まだ警戒してるのか。でもまあ仕方ないかな」
少し困ったように微笑みながらそうつぶやきました。
なのにその声の調子は、どこか嬉しそうにも聞こえるのです。だから猫のルリアの方も、ちょっとだけ安心できたような気がして近付いてきます。
すると、仲間だと思っている人間の方も手を伸ばしてきて。
だけど、『懐柔されてなるものか』とばかりに、猫のルリアはまた奥に下がってしまったのでした。




