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君は君なんだな……

「何を言ってるんだ? お前は」


声を掛けてきたハカセに、フカは素っ気なく返します。


でも、ハカセはなぜか嬉しそうに微笑み、


「これは失敬」


詫びました。


自分の言ってることが通じなくてもいい。ただこうして言葉を交わせるだけでよかった。


実はミコナのママも、虫の居所が悪い時なんかにはこういう感じでひどく素っ気ない態度なこともあったのです。だからなんだかむしろ懐かしくさえあるという。


そして、


「これは、独り言だから、聞き流してくれていいよ」


そう前置きした上で、


「僕は、君に返しきれないほどの恩があるんだ……君に出会えたこと。君が僕を認めてくれたこと。愛してくれたこと。しかも、ミコナという素晴らしい宝物を遺してくれたこと。そのどれもが僕にとっては大きすぎる恩だよ……だから、全部は無理でも、少しずつでも返していきたいんだ……」


呟くように話したのです。


それに対してフカは、背中を向けたまま、周囲に警戒する視線を向けたまま、


「そんなの、オレの知ったこっちゃねえ……オレはお前の女房じゃねえ……だからお前がどう思ってようが、迷惑なだけだ……」


やっぱりつっけんどんな言い方で返します。


だけど、本当に関係ないと思えば応える必要もなかったでしょう。無視すればいいだけのこと。なのに応えてくれたフカに、ハカセはまた穏やかに微笑みました。


ミコナのママも、豪放磊落な人だったけど、その一方ですごく不器用なところもあった。照れくさい時なんかにはわざとガサツな態度を取ることもあった。


フカの態度は、そういう時の彼女に似てる。


『オレはお前の女房じゃねえ』


そんな風に言ったのも、普段のミコナのママの優しい部分を自分が持ち合わせていないことを承知しているからでしょうね。


『ああ……やっぱり、君は君なんだな……』


自分に背を向けるフカを見て、ハカセは一層目を細めたのでした。



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