立派な仕事に就かせる権限なんて
タムテルの母親は、彼に対し、絶対服従を求めてきました。それこそ、赤ん坊の頃から。だから彼は、他人との付き合い方をまともに学んできていないんです。
優しさとか思いやりとか気配りとか。
どれ一つ、彼の母親は、彼に対して見せてこなかったんです。もっとも、母親自身は、
彼を厳しく躾けることが優しさで、
彼に自分の指示に従うことを理解させるのが思いやりで、
彼に逐一命令することで何をすればいいのかを分からせるのが気配りだと、本気で思っているようですけど。
彼女の思う、優しさとか思いやりとか気配りがまさにそれということなんでしょう。
でも、現実は、彼女の思う優しさや思いやりや気配りは、他人には通じない。
だって、他人が彼女の言いなりになって何のメリットがあるんでしょう? 彼女は別に何か特別な権限を持つ人でも何でもないんです。彼女の言いなりになったところでいい暮らしができるわけでもない。ただ単に、彼女一人がいい気分になるというだけの話なんです。
それのどこが、優しさで思いやりで気配りなんでしょうか?
彼女に絶対服従をしていて、タムテルは、将来、立派な人になれるんでしょうか? 彼女にタムテルを立派な仕事に就かせる権限なんてないのに。
母親に従っているだけの彼には、積極的に自分で考えて判断して決断するというスキルが大きく欠けていました。劇で、宇宙人役を買って出たのも、セイラに誘導されて、なんとなくそうしただけに過ぎなかったんです。自分で考えて決めたわけじゃない。
だからやる気なんて出るはずもない。適当に目についたのを口にしただけなんですから。




