なれそめ
ハカセは、基本、発明のこと以外はほとんど何もできない人でした。家事も料理も、ママがいた頃にはママに任せっぱなし。お手伝いさんがいる今は、お手伝いさんにほとんど任せっぱなし。
だけど、ママが亡くなってからは、なるべく自分のことは自分でするようになりました。
『ハカセにとってのなるべく』ですけど。
今みたいに自分の分の料理を運んだり、食事の後は食器を片付けたり、洗濯ものは自分で洗濯カゴに入れたり。
という程度ですけど。
ただ、それ以前のことを思えば雲泥の差というものでしょう。
とは言え、料理ができないのは昔からでも、本当は、掃除や洗濯くらいならできないこともないのです。『できないこともない』程度とはいえ。
だけど発明に没頭してしまうと、気が付いたら、ご飯も食べてない、お風呂も入ってない、全然寝てない、という人なのです。ハカセは。
ママはそれを分かってて、
「私がいないと、あなた、研究室にこもりっぱなしになって気が付いたら死んでた。なんてことになるんじゃないの? だから私が面倒見てあげる」
ということで一緒になったというのがいきさつでした。
元々、幼馴染というのもありつつ。
子供の頃から、ママはハカセのことを弟のように世話を焼いてくれていたのです。
ママは、ハカセのダメなところをよく知った上で、彼の<才能>を認めてくれてたのでしょう。ハカセの才能を活かすにはどうすればいいのか、よく知っていた。
そしてハカセも、ママのことをよく知っていた。
ウル、ティーさん、ガ―、オウ、フカの五つに分かれてしまっても、それが全部ママだということが分かるくらいには。
そんなハカセだからこそ、ママは愛せた。
発明のことしか頭にないように見えて、実は、いろんなことを見ている。見ているから、発明を思い付く。
そういうことなわけですね。