ママから受け継いだもの
『俺はお前達とは慣れ合わない』
その言葉通りというかその言葉を体現しようとしてるというか、オウはリビングの壁に設けられた棚に陣取って皆を睥睨するみたいに見下ろしていました。
「やれやれ、めんどくさいお方でんなあ」
ティーさんがそんなオウを見て首を振ります。<首>と言うか、体全体ですけど。
「仕方ない。オウのことは放っておこう」
ウルも諦めてそう言いました。
「……」
ガーは不安そうにミコナの手の中で視線を泳がせます。
けれどミコナもハカセも、
「問題ないない」
「そうだね。このくらいなら」
余裕の表情。それは、リビングの出入り口の影で背中を向けてるフカのことも含めてでした。
ママが人生経験を積む中で自分を作り上げていったのが、こうして五つに分かれてしまったことでうまくバランスが取れなくなってるだけだというのがハカセには分かってたし、ハカセが慌ててないから心配ないとミコナも感じているのです。
フカが宿してる<ママの一部分>についても、これからまた経験を積むことで落ち着いていくでしょう。
なぜならフカもまた、<ママ>なのですから。自分の中にあるそういう部分を、ママはちゃんと抑えられていました。そして、そういうママになれたのはハカセとミコナがいたからです。そしてここには、そのハカセとミコナがいる。
しかも今のミコナは、ママを見て育ったミコナなのです。ママから受け継いだものを持っている。
その、<ママから受け継いだもの>を、今度はフカに返していくだけ。
そんな中、いつものお手伝いさんが夕食を用意してくれていました。
「ごめんね、ガー。私、お手伝いしなきゃ」
そう言ってガーをテーブルの上にそっと下ろし、ミコナはハカセと一緒に、お手伝いさんが作ってくれたハンバーグやサラダをテーブルに運びました。
ミコナはいつものことですけど、ハカセも、発明に没頭してしまうとついついそっちばかりになってしまうけれど、今日みたいにリビングにいる時には、『自分のことは自分でする』のでした。