3.
「危ないお家だと思ってる」
合流した竜に悪びれることなく、吹は言ってのけた。
まあ、朱桜家のことだから言い得て妙ではある。
「あっ!お兄ちゃん、お疲れ〜!!納豆サイダー飲む?」
「いや、お茶があるから大丈夫」
開口一番、兄に向かい真っ先に納豆サイダーを勧める奏だが、さらりと躱される。
「諦めて持って帰れよ」
「えぇー、吹飲みたそうにしてたから買ってあげたのに」
「いらねー……」
奏の言い分に怒るかと思いきや、要らないと言いつつ仕方なさそうに納豆サイダーを手に取る吹。その隣でワクワクと目を輝かせながらとても楽しそうな奏。
ケンカばかりだったことを考えると考えられないような光景である。
「雪も来てたんだな、分かってたら一緒に来れたのに」
「私も直前に誘われたから」
ふわりと竜くんに微笑まれ、ドキリとしながらも笑みが零れる。
いまだに慣れないから本当に心臓に悪い。
竜くんは私、雪と吹と同い年の大学2年生。
身長も高く、さらりと流れる黒髪、通った鼻筋、顔の造形整いまくりのイケメンである。
そして感情の起伏が少ない。
これでも出会ったばかりの頃よりは大分マシになったほうではあるのだが妹の奏曰く、
『雪ちゃんのお陰で、お兄ちゃんも人並みの真人間に戻ったよ!ありがとう!』
などと言われる有様である。
だからこそなのだが、ただでさえ格好良く見た目がいいのに加え、たまに向けられる笑顔の破壊力と言ったら半端じゃない。
「ところで四人集まって何をする気だったんだ?」
竜が企画した主、奏に振り返る。
「そんなの何だっていいじゃん、みんなの顔見てお喋りしたかっただけだもん」
「で、本題は?」
竜に指摘されて、うげぇっと奏の言葉が詰まった。
隠し事している雰囲気なんて感じなかったが、流石兄妹。恐ろしや。
隠そうとしたつもりはないと前置きしながら奏は語った。
「3年生だから進路でオープンキャンパスに行く機会が多いんだけど、変な人に絡まれるんだよね。大学に入る前に入れるサークルもあるとかで…」
「危ない勧誘じゃねえの?無視しろ無視」
「…潰せばいいのか?」
二人して穏やかじゃない。
一見、吹は良き兄風に優しげに心配しつつ、落ち着いてアドバイスなんかもしているようだが、持っていたチョコレートがバキッて言いました。砕けてる砕けてる。
竜くんはそれは一旦やめておいて下さい。
ともかく二人とも落ち着いてほしいです。
「普通に断ってるんだけど、どうしようにも行く先々の大学で会うんだ。謎でしょ?」
なんかストーカーのようだけど、ただのストーカー話と言うわけでもなさそうだ。
奏は続けて気になることを告げた。
「その人言ったんだよね、『君は僕と同じ世界を共有している』って。あと他にもその人自身人間じゃないみたいなこと言ってたけど、これってあちらの国の世界のことだと思うんだ」
だから久しぶりに行ってみようよ、なんてね。
普通のモンペとしれっとモンペな二人です。