冒険者になる その1
あの大災害の日から今日でちょうど、10年が経った。
かくいう僕も被災者のひとりであり、当時の凄惨な光景をよく覚えている。
当時8歳だった僕は、熱を出し、両親と病院へ向かっていた。
具合が悪かったとか、別にそういうわけではなかったけれど、心配した両親が気を使ってくれたのだ。
普段なら学校に行っている時間。
友達が授業を受けている時間。
そんな時間に両親とお出かけ。
なんだか悪いことをしている気分になって、少しだけ楽しかった。
そんなことをよく覚えている。
感傷に浸りながら駆け足で進むと、ついに、この一帯で一番大きな建物が現れる。
秋葉原駅電気街口からロータリーを挟んで反対側。
日本ダンジョン協会だ。
地上50階、地下20階の大きな建物には、日本における主力攻略チームの事務所があったり、冒険者のための訓練場があったりと様々な施設が入っていた。
そして、今日はそんな巨大な施設のすべてが借り上げられ、年に一度の冒険者承認試験が行われる。
そう、日本中の冒険者を志す者が一堂に会すのだ。
ただ、試験とは言っても形ばかりのもので、実際の内容は、運動能力の測定、魔力量の測定など、協会側の手続きによるものなどが多い。
それもそうだ。毎年の冒険者の登録人数は約一万人と言われており、試験を行おうものなら何日かかっていくらかかるのか、想像するだけで途方も無い。
命を懸けて行う仕事なのだから、試験だってちゃんと行うべきだという非難の声などもあるが、そういったいろいろな問題が積み重なり、現状はこのような形で落ち着いている。
そんな、社会では一石を投じられるような問題がある冒険者試験だったが、僕としてはとても都合がいいことだった。
なぜなら、僕も冒険者登録を行いたい一人だったからだ。
正面玄関の自動ドアをくぐり抜けると、そこは地上三階を吹き抜けにして作られたとても広いロビーだった。
ロビーは数えきれないほどの志願者でごった返している。
鼓動が早くなった。
駆け足でやってきたからなのか、いや、気分が高揚しているからなのだろう。
少し震える手を握り込み、受付の文字がある場所を探した。