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トウキョウダンジョンシティ  作者: ぐるぐる
17/18

修行 2

これから準備をするわけだが、その準備と言ってもたかが知れている。


昼食用のお弁当を準備し、装備を身に着けてしまえば準備すべきことも他にない。


日も登り切らないほど暗い中、何をするか考える。


とりあえず、昼食のお弁当を用意するために冷蔵庫を確認する。


庫内の食材を吟味して、卵焼き、豚肉の生姜焼き、それと昨晩の夕食の残りの野菜炒めを弁当に詰めることにした。


卵焼きの味付けは少量の塩と水だけ。


甘い卵焼きはご飯のおかずとしては合わないという持論の元、お弁当に入れる卵焼きは甘くしない。


甘い卵焼きはカステラのような、デザートとして食べるものだと、僕は思っている。


いつもの手つきで作った卵焼きを少しだけ覚まし、端の見た目の悪い部分だけを切り取り、六等分に切り分ける。


端の部分を味見に食べてみると、塩と水だけを加えて作られた卵焼きだとは思えないくらいに瑞々しく、卵の淡白な味か際立つ。


よし、うまくいった、と内心ガッツポーズをする。



次は豚肉の生姜焼きだ。


油を敷いたフライパンが温まるのを待ち、温まったと同時に塩コショウで下味をつけた豚肉の薄切りをフライパンに入れていく。


ジューという音とともに肉が焼け始める。


八割ほど火が通ったところで少量のチューブしょうがと醤油を加え、醤油が肉全体にまわるまで水分を飛ばしていく。


水分が飛び、肉に火が通り切ったところで、もう一度チューブしょうがを加え、火を止めたのちにフライパンを大きく煽る。


加えて入れたしょうがのピリッとした香りと醤油の香ばしい香りがたちこめていく。


その香りの余韻に浸りながら、白色の大皿に盛っていく。


卵焼きと生姜焼きが冷めるのを待ちつつ、使ったフライパンを水に浸け、冷蔵庫から野菜炒めを取り出す。


弁当用の容器に前日にセットしておいた炊き立てのご飯を入れ、その二段目に当たる部分に野菜炒めを詰める。


彩のためにも冷蔵庫にあったミニトマトも二つ入れる。


未だに温かい生姜焼きと卵焼きも弁当に詰める。


お礼の意味も込めてブランドさんの分の弁当箱を用意したのだが、人に自分が作ったものを食べてもらうというのはなんとも緊張するもので、おかずの見栄えができるだけよく見えるように自分の分とは別に綺麗に盛り付ける。


これが彼氏にお弁当を作って持って行く女の子の気分なのかと考えると、ブランドさんの顔が思い浮かび、少しだけ悲しく思った。


弁当の準備も終わったし、冒険者用の装備を身に着けようと自室に戻る。



小さめのチェストメイルと脛あて、それを動きやすいインナーの上につけ、ショートソードを腰に差すだけで終わりだ。


冒険者になってから数か月。その短い期間で防具を付けることにも慣れた。


いつもと違うことは目的がダンジョンではないということだけ。


それでもはやる気持ちからか、身支度もいつも以上の速さで終わらせてしまった。


修行という響きからかなんだか楽しみで、高校生のころの修学旅行当日のような、気分が高揚し、予定の時間よりずっと前に身支度を済ませてしまい、眠いのだが目がさえ、これから起こる非日常を心待ちにするような、そんな気分だ。


朝食用に昨日の野菜炒めをレンジで温め、炊き立てのご飯と生姜焼きを食べる。


食べきったら先ほど浸けておいたフライパンと一緒に洗剤で洗う。



10月に入り、日中の暑さに対して、朝には少しだけ冷え込むようになった。


それもあり、余った時間を使ってコーヒーを入れることにした。


電気ケトルに水を入れ、スイッチを押す。


お湯ができるまでにインスタントコーヒーをマグカップに入れて待つ。


お湯が湧いた合図とともにマグカップに注ぐと、いい香りが白い湯気とともに鼻腔をくすぐる。


お湯を注ぎきると、朝食後の皿洗いで少しだけ冷えてしまった手を温めるように、熱くなったマグカップを両手で覆う。


温まったマグカップは僕の手を



ある程度手が温まってきたので、マグカップを机の上に置きなおし、台所から持ってきた小さなスプーンでかき混ぜる。


溶け切っていなかったインスタントコーヒーの顆粒は、水面をくるくると回って少しずつ消えていく。


顆粒が消えきったことを確認し、一口啜る。


少しの酸味と苦み、その両方が口いっぱいにコーヒーの味が広がり、先ほどまで眠気でぼやけていた頭が冷め始める。


二口、三口と飲み進め、コーヒーを飲み切るころには先ほどまでの眠気は消え去り、太陽も顔を出しており、朝を告げる。


ふと時間を確認すると時刻は6時30分を過ぎていた。


「やっば!そろそろ家を出ないと!」


空になったマグカップを机の上に放置したまま、冷ましていた弁当を小さめな手提げかばんに入れる。


あたふたしながら、忘れ物が無いかを確認し、飲み物をもっていなかったことに気付く。


急いで冷蔵庫を開け、昨晩買っておいたペットボトルのスポーツドリンクを同じ手提げかばんに入れ、玄関へと走る。


シューズアーマーを履き玄関から飛び出す。



駆け足でブランドさんのお店を目指す。


朝焼けが僕の目に差し込み、涼しげな朝の風が僕の背中を押す。




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