修行
目覚まし時計が鳴った。
その大きな電子音は深い眠りについていた僕を引き起こす。
いつも通り朝6時に設定しているのだが、それは朝5時になった。
今日から10月に入るのだが、本格的な冬を前に、ここ東京は寒さを感じさせる。
閉じたカーテンの隙間から差し込む光は宙に舞っている埃を照らし出し、なんだか幻想的にも見える。
ぼさぼさの髪の毛を手で梳きながら体を起こす。
両の瞼に付着している目ヤニを落とすため、右手の人差し指でこするのだが眠気は冷めることなく、目ヤニも簡単には落ちてくれない。
目を覚ますために立ち上がり、洗面所までフラフラとした足取りで向かう。
欠伸をしながら洗面所に向かう姿は、まるで冒険者のようには見えない。
僕はあることを決めた。
最近は冒険者としての活動にも慣れ始めていて、それが原因で昨日ブランドさんに叱られてしまった。
このままの気の抜けた自分であれば、ブランドさんが言っていた通り、遠くない未来に死を迎えることになっていたと思う。
そこで、ブランドさんにお願いをして冒険者としての実力を鍛え治してもらうことにした。
第一線で活躍していたブランドさんであれば、よくある冒険者スクールなんて呼ばれている、冒険者を養成する学校に通うよりもずっと意味があるはずだ。
元第一級冒険者としての技術、感覚、そして知識など、多岐にわたるものが必ず僕の冒険者としての成長に大きな影響を与えてくれるだろう。
しかし頼んでみたところ、なんとも簡単には頷いてはくれないもので、粘りに粘ったすえ、報酬としてコボルトスピアを譲ると言ったところ、なんとか引き受けてくれた。
ただ、そこには条件が付けられた。
一つ目に、絶対にブランドさんの言うことを聞くこと。二つ目に、修行を受けている間は絶対にダンジョンに潜らないこと。そして最後に、これから先、ダンジョンに潜ることがあっても、絶対に危険な行いをしないこと、だった。
危険というのは他の冒険者を無理に助けようとしたりだとか、下調べなしでした階層に下り、探索を行ったりだとか、とりあえず、考え無しの油断とみられる行為を指している。
ブランドさんのお店は午後3時からが開店なので、朝7時からそれまでの時間、その条件のもと、訓練を付けてもらう予定だ。
ともかく、顔を洗い終えた僕は、タオルで拭いた顔を両の手でパシンと叩き、大変になってしまうであろう、これからの修業期間を覚悟するのだった。
王道パターン修行フェイズ