なれ その3
コボルトスピアを持った僕はブランドさんのところまで急いだ。
コボルトスピアを見せれば、ブランドさんも祝福してくれるに違いない。
さっきあったことをできるだけ忘れようと、小走りになりながら進んでいくと僕に声がかかる。
「ねえ、あなた」
その凛々しい声の主のほうへ振り向くと、そこにはアーデルさんが立っていた。
前であったときと同じような格好をしており、そこはかとなく近寄りがたい雰囲気を醸し出している。
「あ、どうも、こんにちは…。いったい何の御用でしょうか…。」
彼女に声をかけられるいわれも無いので不思議に思って尋ねる。
「見知った顔に声をかけることすら許されないのかしら?それとも、私を邪険に扱ってもいいほど、あなたは成長したのかしら?」
アーデルさんの言葉は前回と同様に刺々しく鋭い。
「いや、そんなに成長してるわけでもないですし、アーデルさんのことを邪険に扱っているつもりもありません…」
アーデルさんは僕をにらみつけ返す。
「馴れ馴れしく名前を呼ばないでもらえるかしら?」
名前を呼ぶだけで火に油を注ぐ形になってしまった。
「どうせ、レアドロップを手に入れたのを自分の実力と勘違いしているんでしょう。そんな人間は明日にはモンスターの餌になって誰にも名前を覚えられずに死んでいくんでしょう。」
きつい言葉を言われてしまった。
でも、僕は着実に成長している。
もう、コボルト相手に後れを取ることもないし、5階層までの敵なら何が相手でも負けることは無い。
このコボルトピアスも頑張っている僕に運が味方したんだ。
そんなことを言い返すことができるはずもなく、「すみません」とだけ返す。
「精々、自分の力に慢心してモンスターの肥やしにならないことね。あなたみたいなのが死んでそのつけを払わされるのは、私たち他の冒険者なんだから」
それからは何の会話もなくお互いの目的地であろう、ブランドさんの店へ進んでいく。
どうにも居心地が悪いが、できるだけ別のことを考えた。
コボルトスピアの使い道。
使ってもいいし、売ってもいいし、どんな風に扱っても今の僕にはプラスになる。
居心地の悪さを打ち消すようにコボルトスピアのことで妄想を膨らませるのであった。