なれ
冒険者として活動を始めてからもう一か月がたった。
月日が流れるのは早いもので、時間というものは良くも悪くも人をなにかに慣れさせる。
かくいう僕も冒険者という職業に慣れ始めていた。
最初の狩りをした次の日から、一階層で探索するのはやめ、5階層での探索をメインに行うことにした。
理由は単純、ビギナーズキラーである、ゴブリンが出ないからだ。
低階層であればあるほどモンスターは弱い。
その理屈は変わらない。
しかし、それはモンスターの特性を度外視した場合にのみいえることだ。
ゴブリンにはダンジョンからポップした後仲間を見つけ、集団で行動する習性がある。少ない時には3匹。多い時には15匹ほどで徒党を組み、そして冒険者に襲い掛かる。
たかが、ゴブリンであれど、数匹を相手にするのは初心者には無理な話だ。
三匹のゴブリンからダガーが突き付けられてしまえば、無傷で避けきるなんてことはビギナーの冒険者にできるはずがない。
そこで5階層である。
5階層ではゴブリンよりも強いコボルトというモンスターが出現する。
コボルトはゴブリンと違い槍を持ち、知能もゴブリンより高い。
だが、奴らの習性上、他の個体を見つけても群れることは無いのだ。
ゴブリンを三体相手取るよりも、一体のコボルトと三回戦闘するほうが危険も少ない。
何より、あの人間のようなフォルムを見なくていいということも一因している。
コボルトは狼がちょうど立ち上がったような見た目をしており、殺してしまうことへの嫌悪感が少ない。
また、お腹を刺しても体を纏う毛皮があるからか、彼らの内臓を目にしてしまうこともない。
狩りの安全性的にも、精神衛生上にもコボルトのほうがずっとマシなわけだ。
コボルト狩りを始めてからはこれと言って死を間近に感じることも少なくなってきた。
加えて日々の収入も安定してきている。
コボルト一匹を倒して落とす魔石はゴブリンが落とす魔石なんかよりも高い。
安くてもひとつ五千円くらいで買い取ってもらえるし、いいものだと一万円ほどで買い取ってもらえる。
そんなコボルトも調子がいい時には一日に最高8匹も倒すことができた。
武器のメンテナンス費や税金、冒険者がギルドに払わなければいけない会費なんかを支払ったとしても、生活するにはなんとか足りる稼ぎだと言える。
加えてレアドロップだ。
コボルトがドロップするアイテムではコボルトの牙が一般的だが、まれにドロップするレアドロップは高値で売買されている。
それは『コボルトスピア』だ。
コボルトスピアというのは読んで字のごとく、ダンジョンにポップするコボルトが所持している槍のことだ。
ダンジョン産の武器は形が不格好でダサいとは言われているものの、ダンジョンから生成されたということもあり、武器自体、魔力との親和性がとても高い。
コボルトスピアも同様で、槍という使いやすい形状からも、中層くらいまでなら武具屋に手直しをしてもらいつつ実戦で使用することができるという。
しかし、そのドロップ率は一万匹に一つなんて言われており、どんな豪運を持っていたとしてもお目にかかれるということは少ないらしい。
努力するものが報われるとは限らないが、成功したものはすべからく努力をしている。
僕も日々の鍛錬を忘れず、少しでも弱い自分を強くするべく鍛錬にいそしんでいる。
コボルトが僕に向けて一直線に突き出してきた槍を体をひねりながら避け、カウンターにコボルトの首にめがけて魔力をこめたショートソードで斬りつける。
刃は首の三分の一くらいまでいったところで止まり、思い切り引き抜くとそこから鮮血が噴き出す。
まもなく絶命したコボルトは粒子になって消えていった。
そこには魔石とともに細長い不格好な何かが落ちていた。
「やった!ついに僕にも、運が味方してきたんだ!」
ボロボロに見える、その槍は今までに見たどんな魔石よりもキラキラして見えた。