あぶらあげ
カレーの作り方。
本格的なカレーを作るのであれば、スパイスを油で炒めるところから始まるのだが、本場では、スパイスを入れて炒めただけのものをカレーと呼ぶこともあり、その作り方は多岐にわたる。
日本の家庭的なカレーと言えばやはり、日本が誇る食品技術の結晶、カレールーを、具材が煮込まれたスープに投入するのが一般的だ。
また、日本の家庭で作られるカレーの種類も多岐にわたり、家庭ごとに入れる具材によってオリジナリティが現れる。
僕の両親が作ってくれていたカレーは、にんじん、ジャガイモ、玉ねぎ、豚肉、そして、一般的には入らない油揚げなんかが入ったりしていた。
これが実はおいしいのである。
大豆の淡白な味が油揚げにしみ込んだカレーとよくマッチして、ご飯とよく合うカレーと油揚げが、その料理自体を一歩先のものへと進化させる。
これぞ『究極の家庭料理』といった感じだ。
そんな両親は僕が幼いころに死んでしまった。
僕が小学校に通っている最中に、あの大災害が起きたのだ。
前日の夜はお父さんもお母さんもとても機嫌がよくて、次の日にする両親のデートの話で盛り上がっていた。
明日は東京に行って、すこし高いランチでも食べようかなんて話をしていたのを覚えている。
僕は一人置いて行かれてしまうことに少しさびしさを覚えていたが、一緒にカレーライスを食べながら囲んだ食卓は、そんな寂しさを吹き飛ばしてしまうほどに、楽しいものだった。
僕は切った食材を鍋の中に入れ、炒めていく。
ジューっといい音がして、玉ねぎに熱が入っていくような、いい香りが鼻腔をくすぐる。
そこに小さめに切った油揚げを入れ、水を入れる。
鍋底に溜まっていた油が水が加わるとともに、油揚げと一緒に浮かんでくる。
このカレーを最後に食べた日。
あの日のことを懐かしく思う。
僕は一人でもなんとか生活できています。
おばあちゃんやおじいちゃんのお世話になることもあるけれど、先行きはどうやっても不透明だけど、ちゃんと働いてもいます。
グツグツと煮える鍋の中、ゆらゆらと浮かんでいる油揚げは僕に向けて応援旗見えた。
カレールーを溶かし入れると鍋の中のスープの色が濁りだし、油揚げが入っていることは僕以外にはわからなくなる。
そのカレーは母が作ってくれたものよりも油っぽくて、あまりおいしくはなかった。
少しがっかりはしたものの、明日への活力はみなぎっていくのであった。
油揚げ入りカレー、結構おいしいものですよ。