くだらない その3
夕食は何にしようか。
和食、洋食、中華。
野菜か魚介か肉か。
素材の中に出さえ種類がたくさんある。
その組み合わせは無限といってもいいだろう。
とはいっても、無限の組み合わせの中には、同時に食べるとお腹を壊してしまうものや、食欲を無くすような組み合わせもある。
僕とアーデルはつまり、そんな組み合わせなのかもしれない。
とりあえず、今日の料理はポークカレーにすることにした。
冒険に出なかったから時間も有り余っているし、少しくらい時間がかかる料理でもいいだろう。
このスーパーはダンジョンができる前からあるらしく、今の夕方5時という時間帯になってくると、仕事を終えたスーツを着た人やダンジョン帰りの冒険者、年齢層も様々で混雑している。
左手に持ったカゴに夕食の素材を入れていく。
玉ねぎ、にんじん、ジャガイモ、豚肉。
新鮮そうなものを吟味して入れていく。
「カレールーはっと…」
カレールーを手に入れるため、取り忘れが無いかカゴの中を見返しながら探す。
カゴに目を向けながら商品棚の角を曲がるとき、こちらに向かって角を曲がってくる小さな影とぶつかり、相手を前方に突き飛ばしてしまう。
前方でお尻をつき倒れている少女は「イタタタ」と頭を頭をなでている。
ふとこちらに気付くと、
「ご、ごめんなさい、私ったらドジで、よく人にぶつかっちゃうんです…」
そう卑下する少女は僕と同様にカレールーを持っていた。
「い、いえ、こちらこそ、ごめんなさい…」
そういいながら倒れた少女に手を差し述べる。
少女は「えっと…」と気まずそうな顔をしながら、僕の手を握り、それを僕は引っ張り上げる。
「ありがとうございます…。それとごめんなさい。私友達にもそそっかしいとか言われるし、まいったなあ。人に迷惑かけてばかりで、こんなでも冒険者になれるのかなあ…」
目の前の少女も冒険者に夢を見ているのか、僕と姿がかぶる。
独り言のようにボソッとつぶやいた言葉は、まるで僕のことのようにも感じられて、慌てて否定する。
「そ、そんなことないですよ!僕なんかでも冒険者なんです…!あなただってちゃんとなれますよ!」
必死にいう僕を見て、少女は少し目を見開き、笑顔を向ける。
「ありがとうございます…! 私、家族や友人からも冒険者にだけはなるなって言われてて、もしかしたら、大丈夫だって言ってくれたのあなたが最初かもしれません。」
別に彼女の何かを知っているわけでもなく、ただ単に自分が否定されているように勝手に感じてしまい言った言葉。だが、それは図らずも彼女を勇気づけることになった。
「いや、そんな、僕は別に…」
まるで、弱い自分と重なって見えたからなんてことは言えない。
それを言ってしまうことは、相手のことを傷つけてしまうことになるだろうし、他でもない自分をも否定してしまうことになる。
少女は変わらない笑顔で僕に向かって言う。
「私…えっと、来月の誕生日から冒険者になろうと思ってるんです。この場合は冒険者ネームのほうがいいか…えーっと、エミリーいって言います!もしかしたら同じ冒険者として、どこかでお会いするかもしれません!その時はお願いします!」
満面の笑顔で言われてしまった。
僕の詭弁も彼女を傷つけてしまうかもしれないということを思いつつも、「こちらこそよろしく」なんて返してしまう。
僕の横を通り過ぎて去っていく彼女はすらっと身長の高く、前髪が目のあたりまで伸びた男の子のところまで駆けていき、笑顔を向けながら買い物を続ける。
その男の子がこちらに向け会釈をするものだから、こちらもそれに返してしまう。
僕はカレールーを見つけ出すべく、彼女の来た通路を進んでいく。
エミリーちゃんみたいな女の子は、どこかの物語の主人公かヒロインだよね。