変態な先輩がグレードアップしていました〜何やらウニのBL本を持っているようです〜
遠い昔のこと、俺こと佐藤が通っていた中学にはヤバすぎる先輩がいた。一部の過激派エロシズム教徒に崇められているような人だった。
一言一言が淫猥でいつか法律ではなくとも都条例に引っかかりそうなヤバイ先輩。卒業してからはもう縁がなくなったと思って、胸をなでおろした。角を曲がってばったり出くわせば、今週の自分の性癖について語ってくるものだからあって楽しいことはなかったし、むしろ恐怖まで感じていた節がある。
春。高校に入学し、ふとそんな先輩の顔が脳裏をよぎった。虫の知らせというやつだろうか。
俺の先輩嫌悪センサーがいまだに健在だったことがまさかその時証明されてしまうとは思わなかった。
俺の入学した私立南華麗高校にあの先輩がいた。
そのあとはいうまでもない。どれだけ俺が避けようとしても所詮は学校の敷地内。逃走中ならいざ知らず、やはり数奇な運命は2人をスタンド使いのように手繰り寄せてしまうのは定番、御都合主義まであった。
「よし!佐藤、今日の話を聞いてくれ!」
「いやです。断固として拒否します」
「だが断る」
「拒否を拒否るって何すか、二重否定っすか?限界突破すか?」
「まぁまぁ、そんなに構えなさんなって。今日の俺の話は面白いからヨォ」
「あはー、それは当社比ですかねぇ〜。ようやくインラン沼にはまっていた脳みそが浄化されてマイナスからゼロにまで戻ってきたんですかぁ」
「大丈夫だ、問題ない。これまで見たいな裸エプロンや手ぶらジーンズなんていうものとは新しい路線だから!」
「それはあんたじゃなくてまた別の先輩ですよ。箱庭学園にでもいたんすか?マイナス13組ですか?」
「ある意味品性はマイナス13組」
「自分で言っちゃうんだ、ってか自覚あるんだ」
「脱線したが、今話したいのはこれジャジャーン」
先輩がスクールバックから唐突に一冊の本を出す。ピンクを基調とした表紙に黒い丸いものが2つ真ん中に置かれている見たことのない本。
まぁ、先輩がまともにジャンプとかサンデーとか買ったところは見たことはないので、慣れてはいるが……!?
「な、な、んすか、それ……」
「ウニBL本」
「ウニ、BL……は?」
「だーかーらー、バフンウニとムラサキウニがイチャコラする本ー。あ、もしかして佐藤BL知らない人?そんなウブだっけ?」
「いやいやいや、意味はわかりますよ。ボーイズラブですよね?でも、なんでそんな、先輩が?」
「おいおい、性的マイノリティの差別は現代では許されねーぜ?」
「ウニ題材って海外のB級映画並みなんですがそれは……」
「BLだけにってか、はっはー!」
「笑い声林家パーかよ、じゃなくて!女好きだったあんたがどう流れ着いたらそうなるかっつーことですよ!」
「俺もう…普通のエロスじゃ満足できなくて…」
「えぇ…だとしてもBLにしてはヘビーすぎませんか?もっとライトな本あったでしょうが」
「初めはライトな本を数冊買ってたんだが、やっぱりドロドロに絡み合ってるのがいいなぁって思って一通りのジャンルは見てみた」
「手が早いっすね……」
「それで、人に飽きて、獣人にいってみたり、獣に行ってみたり、変わり種で元素とかに行ってみたりしたんよ」
「百歩譲って獣人と獣は想定範囲です。でも、元素ってなんすか!酸素かける水素で水とでも言うんすか!?」
「臭素×フッ素萌え〜」
「まさかのハロゲン!?」
「で、なんやかんや行きつけの本屋で北海道フェスやっててウニのBL本が出てたので買っちゃったのよ」
「ヘイトスピーチもいいところだよ!どこの本屋だよ!」
「紀伊○屋書店」
「あ、実名告白はマズイですよ!」
「流石の俺も北海道フェスに乗じて在庫処分に困っていた本を出すのは卑怯だと思う」
「北海道の皆様ごめんなさい」
「ここで一旦、佐藤に折り入って頼みがある」
「嫌な予感しかしないんですけど……」
「お願い、来世分のお願い!」
「そーですねー、なんせあんたすでに一生分の願いを使って俺に××本の限定グッズとかいう気違い染みたグッズを手に入れるために周回させましたからねー」
「そのことは大いに感謝している!そして今回はそれよりかは辛くない!はず…」
「予感的中コース見えたぞおい」
「俺のアシスタントとして、ウニとインド人のBL同人誌を夏コミに出店するために手伝ってくれないか?」
「譲る百歩ももうないですが、一応聞きますね。なんでウニとインド人なのよ」
「俺さぁ、この前さ、ツイッターに『ウニ×○○本書きます!○○指定は先着一名様まで!』って書いちゃったんだよね。そしたら最初に来たメッセがインド人だったんだ……」
「カオスですね、あんたの頭も周りの人間も。どうしてそんなことをするのやら」
「てっきりさ、海産物で来てくれると思ってたわけなんだよ。ヒトデとかフナムシとか、それならまだ許容範囲だったんだよ」
「上には上……いや、深淵よりも深淵な人はいるもんですからね」
「内容はこじつけがましいができている!あとは期間までに申し込みできれば万事解決!だからお願い!バイト代は払うから!」
「体で払うとか言わないんですね……」
「本気と書いてマジだから!」
「……わかりました。いいですよ」
「やった!ありがとうな!いえっす!これで作業効率が格段に………」
それから二週間俺は学校から帰る時に先輩の家によって、ひたすら絵に色をつけたり、背景や小物を描いたりして必死に先輩のトンチキな目標を叶えるために努めた。
雨の日も風の日も、先輩の絡みが毎日ウザいがそれを堪えて手伝った。
期限まで後51分
「出来たー!イェッス!やったぞ佐藤!最後の一枚ができた、これで発送できる!」
「それは……それは……ぐはっ」
体を酷使しすぎてもう起き上がる体力もない。
「だ、大丈夫か佐藤!?」
「い、いから、さっさと、もうしこ、みを……」
「おぉ、分かった」カチカチッ!
「佐藤、ありがとうな。俺の初同人誌に付き合ってくれて」
「別にいいですよ……よくはないけど。完成したならよしとしましょう」
「……なぁ、佐藤」
「…なんですか、先輩」
「もし、よければ……また、手伝ってくれるか、な?」
先輩は正座して俺のそばに近づいて、顔を赤くしてそう言った。そんな先輩を倒れたまま眺めるが、可笑しくてたまらなかった。
「ふはっ……ど淫乱と後ろ指さされてきた先輩が顔を赤くするなんて…先輩もまだまだ童貞ですね」
「実際、俺の恋人は右手だけだしな」
「え……マ?」
「マ!今なら佐藤に俺の童貞か処女あるいはその両方をくれてやることができるぞ」
「……そうですね、そのうち貰います」
「……マ?」
「……zzz」
「おい!そ、それずるいぞお前!なぁ、佐藤!佐藤ってばぁ!」
後日談なんて野暮なものは書きたくはない。
よくある皆様のご想像通りというやつだ。
でも、1つだけ言うならば、先輩のマニアックすぎる同人誌は案外すぐに売り切れ、なかなかの人気者になった。
ビギナーズラックというやつだろうか、それとも愛の力だろうか。
現在俺たち2人は冬コミに向けての第2弾3弾を描いている。今度は学園ものだ。
ツンデレなウニの後輩となんでもおおっぴろげで天然なインド人の先輩との純愛もの。他意はない。
南華麗高校
↓
ナンカレー高校。
これはギャグですから
そして、紀○国屋書店さんごめんなさい