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「あれでも坊主なのか」
仏教ってのは懐が深いな、と呆れていると、
「滝さん」
少し掠れた声で周一郎が呼んだ。
「……大丈夫か?」
膝をついて、覗き込む。
「参りました」
眩そうに目を細めながら、大人びた口調で苦笑する。
「悪意のない行動だけに拒みにくくて」
「まあ、いい機会だ、少し休んどけ」
熱があるかな、と額に手を伸ばすと周一郎は驚いた顔で目を見開いた。満面に広がった警戒、おいおい俺が何をすると思ってんだよ。動きを止めた俺に気づいてはっとしたように周一郎が謝る。
「……すみ、ません」
「……俺じゃ信用できないってわけか?」
「………そんなんじゃありません」
どこか苛立つように眉を寄せる。
ま、いいや、とお構いなしに周一郎の額に手を当てる。今度は確実に体を震わせて緊張した。それでもすぐに手を離さないとわかると、諦めたように眉を顰めたまま目を閉じる。
「……熱はないな……けど」
まるで魔物の前に引き出された殉教者のような表情に、やれやれ,と溜め息をつく。せっかく布団に横になっても、そんなに緊張したままじゃ意味がないだろうに。
「ああ」
周囲を見回し、気づいて、洗面器に水に浸されたタオルを絞り、苦しそうな相手の額と目のあたりを覆ってやる。
「眩しいだろ」
「っ…」
より体を強張らせた周一郎が、うっすらと不安そうな眼を開けた。弱点を知られたからには攻撃を受けるに違いない、そう考えているような落ち着かなげな視線に苦笑する。
「……俺はちょっとあのぼーずと茶、呑んでくるから」
額から手を離すまで緊張している相手が辛そうで、さっさと退散することにした。
「ゆっくり寝てろ」
弱ってる時に、高野でもない、安心できない人間に側に侍られてちゃかえって疲れるだけなんだろう。
「調子おかしくなったら、呼べよ?」
「はい……」
周一郎はほぅ、と微かに吐息をついて、それでも眉を緩めて力を抜いた。
やっぱり『そうなん』じゃねえか。ほんと、とことんいじっぱりなやつ。
肩を竦めながら、そうか俺はまだまだ安心できない範疇なのか、といささか落ち込みながら立ち上がる。
「……滝さん」
部屋を出ていきかけたときに、掠れた声で呼び止められて振り返る。
「……ありがとう、ございました」
「……ああ」
それが側を離れることに対してなのか、額にタオルを乗せてやったことに対してなのか、判別できないまま、俺は溜め息まじりに部屋を出た。