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大樹の陰で  作者: とびうお
夏休みの始まり
4/4

補習その1

大昔、まだ人々が地上で生活をしていた頃。

ある日突然、世界中で毒の霧が発生した。


この毒の霧は、あらゆる生物の命を奪う危険なものだった。

目に見えず、わずかな隙間があれば入り込み、これを吸った生物は少しずつ弱って、やがて死に至る。


世界中の研究者たちが毒の解明に乗り出したが、駄目だった。

あっという間に毒が世界中に充満し、研究が間に合わなかったのである。


唯一得られた有用な情報といえば「毒の霧は空気よりも重い」ということだ。

この情報のおかげで、高い場所に避難して多くの人が毒の被害から逃れることができたらしい。


とはいえ対抗手段もなく、世界中で発生した毒の霧が地表を覆い、全ての生き物が絶滅すると言われていた。


だが、同時期にこの問題を解決してくれる存在が誕生した。

それが大樹だ。


それは、言ってしまえば異常成長した大木だった。

大樹は当時の地上世界の都市をいくつも丸のみするほどの大きさで、枝先は山より高く、根は遥か地中深くまで張り巡らされているという。

そんな大樹が世界各地に誕生したのである。


成長速度が早すぎたためか、大樹内部には空洞キャピラルがいくつも存在していた。

そのキャピラルこそ、今俺たちが住んでいる場所だった。


大樹の道管・師管から溢れた水が川を作り、その水を吸ったキャピラルは植物を育てるための土壌となった。


また、キャピラルは大樹の成長に合わせて高い場所に移っていく。

高地に移動することで、毒の霧が防げると判明している以上、キャピラルは生物の避難地としてこの上ない場所だった。


そのため、人類は人や多様な生態系を大樹の中に移す計画を実行したのである。


……………………………

………………

………


何でこんなに詳しいのかというと、今ちょうど勉強しているからだ。

優太は自分のノートと黒板を見比べて、情報をまとめる。


今回の全学共通テストは主に歴史がメインだった。

人類が地上を捨て、大樹へと生態系を写した歴史。


どの学校でも必ず教わる初等共通教育の内容だ。

今回の補習の内容も、大樹に関わる歴史の内容だった。


「どうです木下くん?追いつけていますか?」

「あ、はい。大丈夫です」


少し上の空だったのに気づいたのか竹下先生が声をかけてくれる。

メモはしっかりととっているし、内容もしっかり頭に入っている。


「では、木下くんに質問しますね」


そう言って、竹下先生は黒板に絵を描きだす。

大きな木と、可愛くデフォルメされた人や動物の絵だ。

人や動物から木の空洞にかけて、矢印が引かれる。


「人が地上を捨てて、大樹に生態系を移動する計画を実行した際、大きな問題が発生しました。それは一体どういう問題だったでしょうか?」


「先生、流石にそれはわかります。キャピラルにも毒の霧が充満していたことです。」


キャピラルへの生態系移動計画は、開始して早々に大きな問題にぶち当たる。

キャピラル内部にも、毒の霧が充満していたのである。


「その通りです。では、人類はその毒をどうやって除去したのでしょうか?」

「えっと確か……」


具体的な除去法の名前があったはずだが、名前が浮かばない。

固有名詞は嫌いだ。覚えられない。

ノートを確認しようとすると、竹下先生がそれを制止する。


「木下くん、ダメですよ。これは初等教育の内容なんだから、ノートを見ずに言えるくらいでないと」

「うっ……じゃあわかりません」


「仕方ありませんね。それでは、古河さん答えてください」

「はい、上方圧気法です」


「正解です。毒の霧は空気よりも重いという特性を利用して、キャピラルの上から高圧で空気をかけることで毒の霧を除去する技術です」

「この技術は、現在でも下層キャピラルの開拓に用いられています。そして、工業大圏ではこの技術を学ぶこともできます」


「実は先生、上方圧気法の講義も受け持ってるんですけど、皆さんは興味ありますか?」


「私は特に。ここに入ったのも別の目的があったからですし」

「……楓お嬢様が興味ないなら、どうでもいいです」

「すいません、俺もあまり……」


「あ、あはは……そうですか、残念です」

竹下先生は目に見えて残念そうだ。

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