補習の前に
「竹下先生、補習を受けるのって俺ら2人だけなんですか?」
補修が始まる前に、ふと浮かんだ疑問を竹下先生に質問した。
工業大圏。俺と楓先輩が通う、工業や製造業の基本知識を勉強することのできる4学年制の学校だ。
学生数もかなり多く、総勢で確か500人程度在籍している。
今回のテストは全ての学生が受ける全学共通の確認テストなので、俺と楓先輩だけが補習というのはあり得ない。
「2人じゃないですよ?古河さんの後ろに沼田さんもいます」
「え、ああ。ホントだ」
よく見ると、楓先輩の背後にメイド服の少女が立っている。
楓先輩のブロンドに対し、銀髪が印象的な彼女は沼田 遙さんだ。
遙さんは俺と同学年で、楓先輩の専属メイドだ。
いつも楓先輩の近くにいて、気配を隠すのがうまい。
今回も竹下先生に言われるまで全く気づかなかった。
「相変わらず気配を隠すのが上手いな、遙さん。全然気づかなかったよ」
「……ども」
楓先輩とは対照的に随分おとなしい。
楓先輩いわく、人見知りらしい。
「でも竹下先生、遙さんを合わせても3人です。やっぱり少なすぎませんか?」
「うーん、補習対象の子はまだ何人かいるんですけどねえ。残りの子達はまた別日で補習を受けるそうです」
ほう、今日以外にも補習を受けられる日があるのか。
それは初耳だな。
「なるほど。今日から夏休みだし、補習は別日にしてみんな打ち上げに行ったりしてるんですかね」
「ところで、補習が別日でも受けられるということを今聞いたんですが」
「え?……あっ!」
「あっ?」
あっ!って何だ?
「……えっと、言ってませんでしたっけ」
指摘をした途端、視線が合わなくなってしまった。
竹下先生、いくらなんでも嘘つくの下手すぎだろ。
「もしかして先生、わざと別日のこと黙ってましたか?」
「えっと……えへ」
えへ、じゃないよ。
「優太、竹下先生をいじめるのも程々にしてあげて。竹下先生も。補習の人数が少なすぎるとお給料が出ないものね?」
「あわわ、古河さん言っちゃダメですよ⁉︎」
金のためかよ!
しかしさすが楓先輩。学園の情報は筒抜けだな。
「……まあ、特に用事もなかったし、別にいいんですけどね」
「ですよね!」
「ですよね?」
「あっ!」
竹下先生は口を手で覆った。
本当にこの人教師としてやっていけてるんだろうかとむしろ心配になる。
何となく微妙な雰囲気の中、楓先輩が空気を破ってくれた。
「さあ、雑談はもういいかしら?良ければ補習を始めてくださいな」