B-21教室
ガラガラ…
B-21教室を開けると、そこには先客がいた。
窓の縁に腰掛けて外を眺めている美少女。
外から入り込む陽光と微風でブロンドの長髪がキラキラとゆらめいている。
整った顔立ちだが、少しつり目なのが印象的だ。
制服をきているが、その雰囲気はどこか大人びている。
学年が一つ上の古河 楓先輩だ。
向こうもこちらに気づいたらしく、スッと無駄のない動作で立ち上がる。
「楓先輩」
「奇遇ね、優太」
「いや、奇遇というか……なぜこんなところに?」
楓先輩と言えば、この学校「工業大圏(略して工大)」を創設した古河財閥のご令嬢だ。
校内で知らないものはいない。
また、彼女が有名なのは単に「お嬢様」なだけでなく、成績優秀、運動神経抜群という、絵に描いたような完璧超人である事からきている。
だからこそ、補習の教室にいることに違和感を覚える。
「なぜって、そんなの決まってるじゃない。補習を受けにきたのよ」
「補習?あの毎年学年上位を取り続けている先輩が?」
「あら、意外かしら」
「そりゃあ……大事件だと思います」
楓先輩はくすくすと笑う。
「今回のテスト、私受けてなかったのよ。だから補習」
「受けてない?」
「ええ。樹外留学に行っていたの」
「樹外留学ですか……。すごいですね」
樹外留学。
俺たちが住む大樹とは別の大樹へ飛空挺を使って移動し、その大樹にある学生街で勉学を修める。
毎年1〜3人ほどがこの制度を利用しているらしいが、とてつもなく金がかかる制度だ。
樹外留学できるのは、相当成績が優秀な貴族階級の学生に限られている。
「そういう優太はどうなのかしら?あなたは留学してないでしょう」
「ええ。全く身に覚えがありません」
「じゃ、素直に赤点ということかしら?」
「それも身に覚えはないんですが……どうやらそのようですね」
見に覚えがないというのは本当で、今回のテストはわりと手ごたえがあった。
少なくとも赤点はないはずなのだが……。
「そう。じゃ補習頑張りましょう」
「ええ、今日で終わらせてみせます」
「そうね、それが良いわ。せっかくの夏休みですものね」
「そうだ、もし優太が補習最後の確認テストで私に勝てたら、何か一つ言うことを聞いてあげても良いわよ」
何を言い出すんだこの人は。
「なんですか突然……」
「この方がやる気、出るでしょう?」
どう考えても負け戦なんですが。
「工大きっての秀才である楓先輩と、俺とじゃ差がありますって。せめてハンデをください」
「ハンデ、ねぇ……」
楓は少し考える仕草を見せる。
「わかったわ、ハンデをあげましょう」
「ほう」
「優太に30点のハンデをあげるわ。これなら70点以上を出せば負けはないでしょう?」
「ただし、ハンデを決めた以上真剣に勝負しましょう。私が勝ったら、一つ言うことを聞いてもらうわよ」
「……分かりました。その条件で行きましょう」
話がまとまるのと同じタイミングで、竹下先生が入って来た。
「よーし、皆さんいますね。じゃ補習を始めましょうか」