4 サブタイトルだけ~オルツィ『紅はこべ』と少女漫画
かなり古い作品ですが、多少ネタバレがあるかもしれません。
私の【ノート】に書かれているのは以下のサブタイトルだけです。
そうです、この歴史ロマンはとても面白くて、サブタイトルを見るだけで、当時はワクワクしたんですよね。今もですが……。
1905年にイギリスで出版されたそうです。古い……。ですが、古さを感じさせません。
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◆オルツィ『紅はこべ』
01 パリ 1792年9月
02 ドーヴァー<漁師の宿>
03 亡命者たち
04 紅はこべの組織
05 マルグリート
06 1792年のおしゃれな紳士
07 秘密の果樹園
08 全権大使
09 奇襲
10 オペラボックスで
11 グレンヴィル外相主催舞踏会
12 一枚の指令
13 あれか-これか
14 正一時!
15 疑惑
16 リッチモンド
17 別れ
18 不思議な模様
19 紅はこべ
20 同志
21 サスペンス
22 カレー港
23 希望
24 死の罠
25 鷲と狐
26 ユダヤ人
27 追跡
28 ブランシャール神父の小屋
29 罠にかかって
30 帆船
31 脱出
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この作品は、フランス革命直後のフランスとイギリスを舞台にしています。
『紅はこべ』というのは、フランスの貴族の亡命を助ける秘密組織の名前です。
日本では白い花びらの<はこべ>が道端に咲いているのは見かけますが、赤い<はこべ>は見たことはありません。白い<はこべ>を見るたびに、『紅はこべ』を思い出すのは私くらいなものでしょう。
筋から逸れましたが、主人公マルグリートは夫であるイギリスの貴族サー・パーシー・ブレイクニー卿とは、ある事件をきっかけに溝ができてしまっています。
そんな中、マルグリートが偶然夫の秘密を知り、夫の危機を助けようと自ら行動を起こし始めます。夫のほうも彼女を誤解していたことがわかり、夫婦間の愛情が戻るまでを描いています。
その過程で繰り広げられる<紅はこべ>を追い詰める側との駆け引きや、冒険活劇風のストーリー仕立てがとにかく面白いのです。ハラハラする展開もそうですが、多くの女性が好むと思われる美形の貴族、秘密、ロマンス、義賊、パリ、イギリス、フランス革命、などのキーワードがすべてあてはまるのです。お話にハマらないわけありません。
そして、【ノート】には文章などは書いていないのですが、『紅はこべ』を思い浮かべると必ずこの少女漫画もセットで思い出されるのです。
この『紅はこべ』という作品が、ある少女漫画と似ているとずっと思っていました。
それが、上原きみ子『マリーベル』です。今回このエッセイを書くにあたり、調べましたら、本当に影響をうけていたようで、納得できました。
『マリーベル』の時代背景もフランス革命前後、主人公マリーベルもマルグリートと同じコメディーフランセーズという王立劇団の舞台女優の設定、兄もフランスの革命家のサン・ジュスト、後半は彼女を愛する青年貴族が彼女の命を救うため<紅はこべ>のような秘密組織を率いて、貴族の亡命を手助けするのです。
似たような設定ではありましたが、『マリーベル』自体がとても面白く、素晴らしい作品です。
孤児という境遇でも、明るくひたむきに生きようとするマリーベルの姿は共感できますし、彼女に関わる男性たちも、当時の時代背景もあり、さまざまな壮絶な愛し方を見せてくれます。
当時、私のまわりでこの漫画がはやりまして、友達同士で読んでいたのですが、意外にも実在した革命家であり政治家だったサン・ジュストが人気でしたね。この作品の中で良い感じに描かれていました。最後はマリーベルの初恋が実り、ハッピーエンドです。
『マリーベル』の他にも同じフランスを舞台にした、木原敏江『アンジェリク』も好みでした。原作はアン・ゴロンという作家の長編小説の一部を、木原敏江が独自の設定で漫画化した作品です。
こちらはルイ14世の時代のお話で、フランスの田舎の男爵令嬢アンジェリクが主人公です。美形で素晴らしい伯爵と結婚して幸せな生活を送る中、貴族や王の陰謀に巻き込まれて窮地に立たされます。悲しみながらも前向きにたくましく行動し、夫との幸せを取り戻すまでが描かれます。
アンジェリクを愛する男性3人が登場しますが、彼らの個性が見事に表現されていて、それぞれの生きざまを見せてくれます。原作とは多少設定は違っているようですが、木原敏江の『アンジェリク』として楽しめます。
漫画ですから、絵の好みはあると思いますし、かの池田理代子の『ベルサイユのばら』のような強烈な印象は無いかもしれませんが、どちらも少女漫画の名作だと思っています。
蛇足ですが、『紅はこべ』も木原敏江の『アンジェリク』も、宝塚歌劇団で舞台化されたようです。いかにもの内容ですからね。
【ノート】とは関係のない少女漫画の話まで書いてしまいましたが、思い出は尽きません。
小学生の頃、父に読書をすすめられ本屋で最初に買ってもらったのが、少年少女文庫のような中のこの『紅はこべ』とアルセーヌ・ルパンシリーズの『奇巌城』でした。当時はあまり面白く感じた記憶はありませんでしたが、今思うと父の選択は大あたりだったんです。