天照大神様と因幡の白兎。
悠絆君と別れて、手に入れた現金で純米大吟醸と高級スルメを入手した私は天照大神様の住まいにやって来た。
訪問する時のマナーとしてストッキングも買って着物の下に履いてきた。
場所は簡単に言えばこの世とあの世の間です。
あらかじめ訪問したいと伝えて、了承を頂いているため、約束の時間より少しだけ遅れて天照大神様のお屋敷の門前にやって来た。
コートや帽子などは身に着けていないので、緊張しながらも目の前にある立派な日本家屋の豪邸の呼び鈴を鳴らせば中から現れたのはうさ耳を生やしたイケメン執事だった。
燕尾服をピシッと着こなしたうさ耳執事と日本家屋のギャップが凄いことになっている。
「輝夜神様でございますね、私は天照大神様の執事、因幡の白兎と申します」
「初めまして輝夜です」
「主の元へご案内致します」
執事の白兎さんに案内されて玄関に正面を向いたまま上がる。
一度段上に上がったあと改めて用意して頂いたスリッパに履きかえて白兎さんに背中を向けないように気をつけながら膝をついて座り、靴の向きを直した。
靴を揃え直して玄関の隅の方に置き直す。
因幡の白兎さんの後ろについて屋敷内をついて歩けば、沢山の獣人さんとすれ違う。
皆イケメンかつ美女揃いだけれど耳や尻尾が付いている。
良く見れば狛犬やら干支の十二支、お稲荷さんから弁財天様の白蛇、狗神に三大狸伝説から麒麟、あおによし神鹿とまぁ勢揃いだ。
「驚かれましたか、主は大の獣好きであられまして、突如モフモフ~と発狂され屋敷内このように使徒だらけとなってしまいました」
なんでも白兎さんも天照大神様が八上行幸で行宮にふさわしい地を探しをされていた際に、霊石山頂付近の平地まで案内したそうだ。
役目を終えて消えようとしていたところを拉致されて気が付けば執事にされていたらしい。
そうこうしているうちに立派な襖の前までたどり着いた。
「天照大神様、輝夜神様をお連れ致しました」
「はいはーい。 入って貰って」
可愛らしい声がして入室の許可をいただけたため、失礼しますと声をかけて襖に手を掛ければ、客間の炬燵に胸元まですっぽりと入ったゴスロリの美幼女がまっていた。
「天照大神様、またそのような格好で」
「だってやっと神様業から解放されるんだもん、炬燵でゴロゴロしたって誰もバチなんか当てません」
ぷぅっと真っ白なキメ細かな頬を膨らませた姿があざと可愛い。
「天照大神様、初めまして輝夜と申します」
両手が膝に届くまで体を前に深く傾けて名前を告げる。
「はい、貴女が来るのを楽しみに待っていたのよ、さぁさぁここに座って座って」
ポンポンと自分が座り直した座布団の隣を示された。
「あの、ささやかな物で御座いますがお土産を……」
私は風呂敷から純米大吟醸が入った瓶を取り出して両手で渡せば美幼女、天照大神様の大きな目が見開かれる。
「純米大吟醸~!」
どうやらお気に召して頂けたのか自分の身長の半分はあろうかという大きな酒瓶を抱えて跳ね回っている。
「イナバ! 直ぐに熱燗で持ってきて!」
「あのぅ、こちらもお口に合えばよろしいのですが……」
そろそろとスルメが入った桐の箱を差出す。
「スルメ! イナバ! 七輪を持ってまいれ大至急じゃ」
「畏まりました」
優雅に使用人の礼をして部屋を出ていった白兎さんを見送る。
「さぁさぁ堅苦しいのは抜きにして一緒にお酒を飲みましょう! 寿命が近くなって身体が幼児退行を始めてから心配性のイナバ達が好きな日本を隠しちゃって飲めなかったの」
幼児退行、確かに幼い子供の姿をしている。
白兎さんが用意してくれた熱燗と七輪が準備され、天照大神様が嬉々としてスルメを炙っているようだ。
ご機嫌な様子で一杯二杯とハイペースでグラスを開けていく天照大神様の様子にお土産を日本酒にして良かったと安堵した。
それからしばらくしてお酒も入り饒舌になった天照大神様は私が気なっていた内容が分かるように振る待った。
ひとしきり飲んで歌ってと騒ぎ疲れて眠ってしまった天照大神様を白兎が愛おしげに抱きしめた。
「今日は主の為にいらしていただきありがとうございました。 主に代わり御礼申し上げます」
「いえ、こちらこそ楽しませていただきました」
「輝夜神様、主は近頃寝ておられる時間が格段と増えておられます、赤子まで退行されるのも時間の問題でしょう」
優しく天照大神様の黒髪を撫でる白兎さん。
「主はいつも自分が消滅したあとのこの星の行く末を案じて心を痛めて居られましたが、輝夜神様のお陰でここ数百年で一等安らかに眠られておられます」
因幡の白兎さんはまるで壊れ物を扱うように狛犬の使徒に天照大神様を渡すと私に向かって深く深く頭を垂れた。
「この星をよろしくお願い致します」
「こちらこそよろしくお願い致します」
そのまま別れの挨拶を済ませて私は屋敷を出ると悠絆君の元へ飛んだのでした。