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田中悠絆君

 さて天照大神様を訪ねるのに流石に手ぶらは不味いかなぁと思ったのでちょっと古巣である地球に寄り、贈答品を入手することにした。


 天照大神様の好物が何か分からなかったので、古事記でもさらって見ようかなと思ったのだが、はっきり言おう!


 古事記調べるより神様チートの検索の方が早かった。


 そしてどうやら日本酒がお好きらしい、あとスルメ。


 地球は先日立ち寄った時と対して変わった様子は見られなかった。


 ふよふよ人気のない日本の大地に降り立つと、私はこっそり地面に手を突いた。


 両手に神力を込めて地面に埋もれた無数の金属から純金だけを抽出して集めていく。


 砂粒のようなものを神力で塊にしていけばそれなりの大きさになったので、残りはまた地中へ戻しておく。


 集め過ぎも無駄になるし、地球環境を損なうため、必要な分だけを頂いた。


 一番近い住人の気配がする町まで移動し、貴金属の買い取りを行っている店に入店し、抽出したばかりの金塊の買い取りをお願いすれば、直ぐに個室へと招かれた。


 お菓子やコーヒーをご馳走になりながら査定を待っていれば、生前ではお目にかかることがなかった帯びがかかった諭吉様の束がでてきた。


 税込み小売価格で一グラム辺り四千六百八十七円らしい。


「こちらの価格で宜しければ買い取りをさせて頂きますがいかがでしょうか」


「お願いします」


「承りました、では身分証明書の提示をお願いいたします」

 

 当たり前の様に言われて一瞬固まった。


 忘れてた、身分証明書ないじゃん私。


「スミマセン、身分証明書忘れてきてしまいました、身分証明書がないと買い取りは出来ませんか?」


「そうですね、申し訳ありません……トラブルを避けるために当店では身分証明書を提示いただけない場合はお取引をお断りするように規則で決められておりますので、お手数をおかけいたしますが、再度ご来店いただく形になります」


「……わかりました」


 渋々と金塊を懐へ仕舞い外へ出ると、人気がない路地から空へと舞い上がった。


「身分証明書とか盲点だった……すっかり忘れたわ、かといって神様が身分証明書発行して貰えるわけないし、生前の知り合いの記憶は消されてるしなぁ……あっ!」


 思い出したのは天文台の屋上で飲んだくれていた二人の男性、あの二人のどちらかに買い取りして貰えば良いんじゃない?


 おー、我ながら冴えてるかも!


 一度面識を得た人は現在の居場所がわかるようなので、気配を頼りに高速で空を飛んでいく。


 どうやら一人は銭湯に、もう一人は居酒屋にいるようだ。


 流石に銭湯に突然現れるのはなしかなぁと、居酒屋にいる青年に会いに行くことにした。


 人は沢山外を出歩いているけれど、移動速度が早いせいか、はたまた無意識に姿を認識できないようにしているのか、誰にも見つからずに気配のある居酒屋までやってくることが出来た。

 

 居酒屋の中にはまだ夕刻だと言うのに沢山の客が入っていて、乾杯をする声や笑い声がそこかしこから上がっていてその喧騒が懐かしい。


 目的の人物は居酒屋の奥まった場所にいた、どうやら男女合わせて六人ほどでお酒を飲んでいるようだった。


「うわっ!? あの時のお化け!」


 突然姿を表した私に驚いた青年に、一緒に飲んでいた人達が一斉にこちらを見た。


「うわー、凄い美人! なぁ、誰? お前の知り合いかよ」


「なんだよ彼女か? 裏切り者~!」


「うわっ、何あの胸……負けた……」


「ちっ、ちがっ!」


「すみません、彼に用があるのですが少しだけお借りしても?」


 お仲間らしい人々から冷やかされながら見送られた青年を連れて店の外にでた。


 まるで怯えた子猫のような青年に微笑みかけると、ますます警戒心を煽ってしまったらしい。


「いやぁ、合コン中にごめんなさいね。 私この星だと貴方と、一緒に飲んでいたもう一人の人しか面識ないもので」


「もう一人って佐藤さん?」


「あー、たぶんそうかな?」


「なんで佐藤さんじゃなくて俺の方に来たの?」


「えっと、佐藤さん……は現在銭湯にいらっしゃるようなので」


 ポリポリと頬をかく。


「もしかして……ストーカーですか?」


「違うから!」


 なおも胡乱な視線をくれる青年との話を、邪魔されないように、神力で……私達のいる区域半径五メートルを現実空間から一部切り離した。


「さて、お久しぶりえ~と……」


「田中です」


「田中君、お願いです! 身分証明書を貸してください!」


「……はい? いや、貸せって言われても……身分証明書って基本本人にしか使えませんよ」


 まるで可哀想な人でも見る目がグサグサと心に突き刺さる。


「いやぁ、実際には私の代わりにあるものを売ってきて欲しいのよ、ちゃんとお礼はするから!」


「……名前も知らない人の頼みを聞けと?」


「あ! ごめんなさい、私は……名前は……なんだっけ?」


「はぁ?」


 ますます冷たくなる視線が痛い。


「いやー、神様になって日が浅くてさぁ、名前とか決めてなかった、そうだ! 田中くんが決めてよ、私の神名」


「シンメイ?」


「んーとね、神様の名前かな?」


「……一度病院で見てもらったほうがいいと思いますよ?」


「うわ、酷い、信じてない」


「当たり前でしょう、明らかに不審者です」


 いかがわしい者でも見るような目で見られてもなぁ。


「よしわかった! 田中君、ちょっと付き合って貰うわよ!」


 それから私は田中くんを拉致して取り敢えず地球上を回った後、田中くんを連れて大気圏を突破して月の大地に腰を下ろした。


 空気の心配は現実空間から切り離したままなので問題なし。


「ごめんなさい、なんでも言う事を聞きますので地球に帰してください」

 

 田中くんに土下座されました。


「信じてくれた? なら良かった、神名頂戴?」


「ポチ様」


「んー、次はどこに行きたいのかな田中くんは」


「スミマセン! ここって月ですよね? 月から舞い降りた神様って事で輝夜かぐや様でどうですか?」


「んー、安直だけど嫌いじゃないわね。 許してあげましょう!」


 そう頷けば田中くんは明らかに安堵の息を吐いた。


「田中くん……そういえば下の名前何?」


「えっ、悠絆ゆうきです。悠久の悠に、絆で悠絆、田中悠絆」


「悠久の絆かぁ、キラキラネームだね」


 そう言えば目に見えてうなだれた悠絆君。


「言わないでくださいよ……なにげに気にしてるんですから」


「ふふふっ、人にポチなんて名前を付けようとした君が悪い。 さて悠絆君、実はさぁこれからちょくちょく地球に来ると思うんだけど、神様だからね色々動きにくいんだよね、だから協力者が欲しいのよ」


「もうどうにでもしてください」


「うむ、協力感謝するって事で地球に戻りますか!」


「おっ、お願いします」


 疲れ果てた悠絆くんを連れて、地球に向けて移動を始める。


 あっ、そうだ! 思っていたより良い子みたいだし、今のうちにマーキングしておこう!


 遠い目をしている悠絆君の唇に神力を載せた自分の唇を重ねると、驚いたまま動けずにいる悠絆君の唇を割って温かな口腔へと侵入した。 


 しばらく蹂躙して唇を離せば、真っ赤に顔を染めて脱力している悠絆君が可愛い!


「輝夜神様の愛し子にしておいたから悠絆君からも、私に言葉をつたえられるからね!」


「えっ!? 俺……永久に使いっパシリ?」



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