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13 フェネオンの十二の魔本 完

本日二話目です。ご注意ください

 ピピピピピという目覚ましの音が鳴った。

 混濁の意識の中、三太郎は時計を見やる。


(七時か……)


 時刻は七時ちょうど。

 いつもは目覚ましが鳴る五分前には、自然と起きている三太郎。

 目覚ましで起きた今日の朝を、果たして寝坊したというべきかどうか、迷うところである。


 三太郎が布団をめくりベッドから下りようとする。

 そして、気づいた。

 上半身は裸で下はボロボロのジーンズ。


「――っ!」


 思い出したのだ、昨夜あったことを。

 三太郎が辺りを見回す。

 そこにあるのはいつも通りの部屋。

 黄色い水溜まりはなくなっており、ベッドの下を覗いても遺体はない。


(夢……?)


 未だ眼底にある光景が、まるで夢だったかのように思えて、頬をつねる。


「ぐっ……!」


 超合金のような肉体を誇る三太郎も、自分の力でつねればやはり痛い。

 だが、痛みは現実である証拠。


「夢じゃない」


 そこで、ん? と気がついた。


(今、夢じゃなかったとして、何故、昨日の記憶が夢じゃなくなるんだ?)


 考えてみたら、少しおかしな話である。

 そのおっちょこちょいっぷりに、三太郎は自分で自分を笑った。

 とりあえず今するべきことは、朝食を食べて学校へ行く準備をすることである。

 朝はなにかと忙しい。

 道々考えていけばいいかと、三太郎はベッドから立ち上がる。

 その時、ふと、机の上にある開いたノートが目に入った。

 感じる違和感。

 三太郎は机に近寄って、ノートを見た。

 そこには、こう書いてある。


『拝啓 強い強い誰かさんへ


 無事にフェネオンの十二の魔本を集めることができました。


 これも偏にあなたのお力添えあってこそだと思います。


 本当にありがとう。


 あの戦いを経て、私も少し目線の高さが変わったような気がします。


 さて、現在あなたがこれを読んでいる時、突然家にいたことに驚いているかもしれません


 あの後。


 四堂君を倒し、フェネオンが去ってからのことですが、あの場であなたは倒れてしまいました。


 ですので、私がこの部屋まで背負って運びました。


 私自身魔力が残り少なく、あなたも重くて、とても大変でしたが、それでも苦労して“私”が運びました。


 いえ、別に恩を着せようとかそんなつもりはありません。


 ただ、あなたも真実が知りたいでしょうから、私が苦労してあなたを運んだことを伝えただけです。


 他意はありません。


 本当ですよ?


 セレスの死体は持っていきます。


 部屋もきれいにしておきました。


 公園の遺体も、四堂君の遺体もあなたが目覚める頃には既に運ばれているはずですので、心配はいりません。


 本当は目が覚めるまで待とうかと思いましたが、私は魔法使い。


 やはり魔法使いは魔法使いのルールに従わなければなりません。


 魔法の秘匿は絶対のこと。


 科学の進化したあなた達が魔法を手にすれば、核兵器や先程の魔神を超えた、もっと恐ろしいものが生まれてしまうのではないでしょうか。


 革新的すぎる技術は不幸しか生みません。


 ゆっくりと技術に併せて人と社会が成長していかなければならないのです。


 でも悲嘆することはありません。


 あなた達と私達の交わりは確かにあるのですから。


 いつかは必ず互いが互いを尊重し、認めあえる日が来ると信じています。


 それではさようなら。


 ――とある美少女魔法使いより』


 三太郎はそっとノートを閉じる。

 新しいシャツを着て窓際へと移動し、カーテンを開けて朝の空を眺めた。

 どこまでも広がる蒼天に三太郎は思う。

 それは一夜の夢。

 されど激動の夢であった、と。


 当初、魔法使いは倒すべき悪であると考えた。

 その通り、罪なき人が魔法使いの犠牲になった。

 だが、魔法使いにも決して悪ではない存在がいることを知った。

 そして、とてつもない悪がいることも。


(四堂……だったか)


 不幸な生い立ちであった。

 四堂の人生は何一つ救いのないものであった。


(もし俺が神にこんな世界を望まなければ、四堂は今も家族と共に、平和に暮らしていたのだろうか)


 そう考えると、胸が息詰まるように苦しくなる。

 いや、四堂だけではない。

 イフリートの炎の中で亡くなった家族。

 ヒュドラに殺された三人の魔法使い。

 そして三太郎自身が殺した魔法使い。

 重く冷たい現実がのし掛かる。


(詮なきことか……)


 所詮は仮定の話。

 そんなことで潰れるほど、三太郎はもう若くはない。

 何ができるか、を考える方がよっぽど重要だ。

 三太郎は共に戦った魔法使いが書き残した言葉を思い出す。


 ――いつかは必ず互いが互いを尊重し、認めあえる日が来ると信じています。


 そうだな、そのとおりだ、と三太郎は思った。


「そういえば、お互いの自己紹介もしてなかったな」


 三太郎は、ふっと笑った。


「三太郎ー! ご飯冷めちゃうわよー!」


 一階から母の呼ぶ声が聞こえる。


「今いくよ!」


 一階に降りた三太郎は、母の作った朝食を食べ、“サンバレニカ学院”普通科の制服に身を包み、家を出る。

 そして、朝日を背に、自転車に乗って学校へ向かった。


 ――今日も三太郎の変わらぬ一日が始まろうとしていた。


これにて完結です。

読んでくださった方々ありがとうございましたm(__)m

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