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はたらきびと~ある労働者(ろうどうしゃ)の物語(ものがたり)

作者: 恋住花乃

むかし、あるところにとある職人しょくにんがいました。

その男は、大金持ちになりたいと思っていました。

毎日毎日、寝る間を惜しんで、はたらいていました。


今の世の中では、がんばればがんばるほど、多くのお金を得ることができますが、当時は、徒弟制度、学校で言えば、先生と上級生の関係です。親方という先生の下に弟子がいて、その下にまた弟子が居る。そんな制度がありました。


その男は、あたらしい考えを持つ人でした。

今まで、親方になれるのは親方の子供だけでした。

そんな制度を変えようと思いました。今の制度では、出世しても親方の直参じきさん弟子にしかなれません。

直参というものは、親方に直接、教えられる者ということです。


そんなある日の事でした。彼は、とても疲れてしまいました。

「俺が休んどったら周りの奴に先、越されるぞ。」

彼はあせりました。今まで休むこと無く働いてきた信頼しんらいがくずれるのではないかと不安になりました。


しかし、余りにも疲れていた彼は、起きようという意志いしに逆らって寝てしまいました。


意識いしきを取り戻すと、そこには、江戸時代に生きるその男には驚かされる風景がありました。


「これは石垣いしがきか?じゃが、家の壁を石垣にするとは、信じられん。いや?これは瓦か?何で屋根に使わない。」

その男は赤いブロック状のかたまりを触って考えていました。

レンガという西洋の建築材料はまだ日本にはありませんでした。

連歌という詩ならありましたがね。


「ねぇねぇ。あなた人間なの?」とある少年が彼に尋ねました。

これは異な質問をすると彼は思いました。普通の世界なら人間であることは尋ねないからです。


そこで、夢だと彼は確信し、この世界を楽しもうと思いました。

「いかにも我は人間なり。神保町の刀鍛冶の正露丸せいろまると申すものなり。」

「僕はね、箸本って言うんだ。もしかして、あなた人間だったけど、物になっちゃったの?」

「そんなことはないはずだ。私は人間だ。ご覧のように心を持っている。物のはずは無い。」


「人間は僕みたいな物に心が無いと思ってるけど、違うよ?」

箸本は可愛らしいようすで言いました。

「いや、心を持つのは人間の特権だ。それは変わらない。」

「納涼に出てくる妖怪は、みんな物の心の現れだよ。」

ここでいう納涼のうりょうとは、怪談、つまりお化けの話をして夏の厳しい暑さをやわらげる試みのことです。


「一反木綿なども物心の現れだというのか。」正露丸というその男は、少しおびえていました。

「そうだよ。でも、今年の冬はとても楽しみなんだ。」

箸本は嬉しそうに、彼に言いました。

「何かあるのか?今年。」

「実はね、赤染の翁という人がね。僕を丁寧に掃除して、新しいご主人様の所に渡してくれるんだ。」

本当に箸本は嬉しそうに語る。でも、どこか寂しそうだった。

「でも、新しいとこに行ったら会えなくなっちゃうね。」

「そうだな。でも、俺にも物の心というものが備わったようだな。だから、いずれまた会えるだろう。」


物の心を身に付けるということは受身になり、どんな厳しい事でも甘んじて受け入れるそんな人になる事であります。

言いたいことを我慢して言わないことであります。

また、抵抗するような事を考えないということです。

物の心を得たものは、不瞋恚戒を守ることが出来る、すなわち、どんな事に対しても怒ることがない。ありのままを受け入れるのだ。これは本当に難しい。彼は仏の道を一歩踏み出したのである。


余談になるが、巷で話題の赤染の翁と呼ばれるものは、真宗系の僧であり、一年かけて要らなくなった物を寺に集め、師走に檀那寺を問わず、配ってゆくのであった。


これ日本版サンタクロースの始めなり。


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