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三日月の使霊術師  作者: 蓮と 悠
SIDE・Y
3/20

邂逅

 優花は今、森の深部へと進んでいる。より沢山の悪霊を討伐するため、父や兄に成長した姿を見せるため、その内気な性格からは考えられないほどの大冒険をしていた。


 優花が森の深部を目指しているのには理由がある。この森は白峯神社から3km程離れた場所にある松山という山の一部だ。木々が生い茂り日中であっても薄暗いこの森には、霊脈と呼ばれる場所が存在する。優花は今、その霊脈へと向かっている。


 本来霊力とは、人間や動物、霊が活動するための力のことを言うが、それは植物等を通じた自然循環の中でも発生する。そのため、植物がたくさんある森などの空気中は霊力もそれなりに蓄えられている。

 中には、他の場所とは霊力の含有量が段違いに多いところがある。その場所こそが、今優花が目指している霊脈である。


 霊脈はいわゆるパワースポットのような場所で、人間、動物、植物、霊全ての種に対して活力を与える効果がある。そのため、植物は生い茂り、動物は力強く、そして悪霊もたくさん集まってくる。


 つまり優花は今、そんなモンスターハウスに向かって歩いていることになる。父には絶対に近づいてはならないと言われているが、別に霊脈の中央に行くわけではない。

 霊脈の影響を受けている中でも端らへんならそこまで脅威ではないだろう。優花は、そんな甘い考えを抱いていた。


 優花は、未だなお、その足を休めない。もう30分以上は歩いているが、なかなか悪霊が見つからない。不気味な鴉の声が響き、近くの茂みからもガサガサ音が聞こえてくる。

 陰陽師といえども根は16歳の少女なので当然恐怖と不安は積み重なっている。しかし今の優花には、それを覆い隠す程のやる気がみなぎっていた。


 優花が、いよいよ霊脈の入り口地点に到着すると、突然今までなかった感覚が全身に駆け巡る。まだ霊脈の入り口に過ぎないというのに、周囲の霊力は今までの1.5倍ほどに膨れ上がっている。優花の体内霊力も、心なしか活性化しているように感じる。

 優花はすぐさま感覚を研ぎ澄まし、近くに悪霊がいないか調べ始めた。幸か不幸か、優花が探知可能な半径100mの範囲には悪霊の反応が18あった。優花が歩いてきた方角である東には反応はないが、南には5、北には4、そして東には9。

 今までのことを考えると驚異的な数字だ。流石に9体いる東に進む気になれなかった優花は、おとなしく北に進むことにした。


 優花は慎重に進んだ。最善は、悪霊に気づかれずに討伐すること。これは陰陽師なら誰もが最初に教わることだ。いくらやる気で空回りしていようとも、それくらいは心得ている。

 少しずつ近くなっていく悪霊の反応に、胸の鼓動も少しずつ早くなっていく。


 そこから少し歩いたあたりで、優花は咄嗟に近くの木陰に身を隠した。ついに二体目の標的を視認したのである。体長は120cm程の中型の悪霊。どうやら犬の因子を持っているようで、姿形や歩き方も、完全に犬のそれだった。


 動物型の悪霊は動物の魂から、人間型の悪霊は人間の魂から生まれることが多い。そのためこのような山奥には、動物型の悪霊が多く生息している。しかし、最初に遭遇した人間型の悪霊のように、山奥でも人間型がいないわけではないので、あまりあてにならないかもしれないが。


 優花は、先ほどの悪霊と同様に、身体の周りで浮遊している式神に指示を出した。


「お願いします、攻撃して!」


 しかし、そううまくはいかなかった。優花の気配を察した悪霊は、式神による攻撃を躱したのだ。それだけではない。その獣の如き俊敏性を持って、森の中に隠れてしまった。


「かわされちゃった……? 一体……どこに……」


 突然の出来事に優花が混乱していると、左前方の茂みから犬の遠吠えと思しき声が聞こえてきた。その声は森に反響し、別の場所からも犬の遠吠えのような声が聞こえてくる。


「何が起きてるの……?」


 その現象の理由は、優花の問いかけに応えるように明らかになった。突如として聞こえてきた複数の犬の鳴き声。それは、優花が対峙した悪霊の仲間だ。近くに潜伏していた仲間を、先ほどの悪霊が呼び寄せたらしい。


 これによって、北側にいた4体の悪霊が全て集まってしまった。いくら下級悪霊と言えど獣の瞬発力を持った悪霊が4体となると、今の思考が混乱している優花が対処するのは不可能だ。

 4体の悪霊は、一斉に動きを見せた。4体とも、なりふり構わず優花に向かって突進してきている。優花の式神も善戦しているが、主の霊力供給が不安定になっているため、本来の能力を行使できないでいる。


「そんな……私、どうしたら……」


 優花が戸惑っている間に、破魔の札は全て倒されてしまった。この状況で優花に残された勝機は一つ。母の器を解放することだ。

 しかし、今の優花の精神状態でそんなことができるはずもなく、優花はただ走った。あの獣型の悪霊に脚で勝てるはずがないことはわかっている。でも、優花はとにかく全力で走った。

 案の定優花は、後方から追いかけてきた悪霊に追いつかれてしまった。そしてその悪霊は優花の足に噛み付いた。


「きゃあ‼︎」


 いくら霊体であろうと攻撃されると痛みを感じる。噛み付かれたふくらはぎには激痛が走り、優花はその場に倒れこんでしまった。

 後ろを見ると、先ほど噛み付いた悪霊を含む4体の悪霊が勢揃いしていた。こうなるともう絶望的だ。


 欲張らなければ良かった。あそこで引き返してさえいればこんな怖い目に遭わずに済んだのに。私は……ここで……

 嫌だ、私はまだ死にたくない。

 こんなところで死んでたまるものか。

 私は、生きたい!

「出番だ、リム」

『了解した、主殿』


 直後、悪霊と優花の間に割って入る者がいた。


 薄れゆく意識の中で優花が見たのは、黒装束を身に纏った二人の男。

 左側に立っているのは、ボロボロのフード付きの黒マントを羽織っている2mくらいの男。片手に男の身長程の鎌を持っている。

右側に立っているのは、黒いコートを着て、右手に刃物のような物を持っている身長170cmくらいの銀髪の少年。

 後ろ姿しか見えなかったのと、意識がほとんどなかった事もあって、顔までは見ることができなかったが、銀髪の少年からは何か暖かいものを感じた。


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