手段
テレビの中でお天気お姉さんが、梅雨明けを宣言していた。
ここから先は暑さがどんどんますらしい。
いいことだ。
自分にある問題の解決の糸口が見つからないならせめて天気くらいカラッと晴天であって欲しい。
ここ2週間、シンクロ率の上昇について考え続けていたのだが、特に名案も浮かばずに過ぎてしまった。
6ヶ月あるとはいえ70%程度からのシンクロ率の上昇はそれまでの1/4ほどになるだろうという推測は数多くある。
というか全ての研究者がそう答えている。
1年と数ヶ月で70%。これからの上がりにくさを考慮にいれて計算すると、100%にするためにはあと2年半ほどは必要なのだ。
これをクリアするための方法がわからない。
例えば問題が力をつけろ、というものならば、鍛錬を積み、技を磨けば、簡単ではないかもしれないが、成果はそのうち現れるだろう。
また、知恵を貸せというのであれば、策を練り、ひたすら考え続ければいつかは正解に辿り着くだろう。
いずれにしても課題が与えられた時、鍛錬や思考のように、それを達成するための手段があり、繰り返すことで達成することができる。
しかし、政府からの課題はその手段がない。
他人の心を急激に理解し合う方法など到底思いつかない。
思考も、鍛錬も、知識も、法則もある程度ならばわかるかもしれないが、完璧とはとても言えない。
人の心は複雑に、刻々と変化し続けるのだから完全にわかりあうことは非常に困難を極める。
「マスター?何か探し物ですか?」
現状を改めて把握して、少し落胆しているところに今日から(学校指定の)夏服に袖を通したカレンが声をかけてきた。
玄関で待っていてもなかなか出てこないから呼びに来たらしい。
カレンの夏服は去年にも見たからこれで2回目だが、白を基調とした布に、オレンジのラインが入ったものだ。
全国的にも人気が高く、女子生徒のなかにはこれを着るためにこんな物騒な学校に入学を決意した人もそれなりにいる。
爽やかで清楚な中にも、明るさがあり、よく似合っている。
「夏服、似合ってるな」
「え、あ…ありがとうございます……」
急に言われてびっくりしたのかもしれないが、嬉しそうな表情をみせてくれる。
「よし、じゃあ行くか」
「はい!」
この夏服が冬服に変わる時には、俺は何かをつかめているのかとなんとなく思う。
ーーいくつかの授業を終えたあとの昼休み。昼食の席にはいつも通りカレンがいて、
今日は天ぷら蕎麦をズルズルとすすっている。
いつもと違うのはこの場所にもう一人女子がいることだ。
カレンの向かいで、こちらはきつねうどんをツルツルと食べているのは、この高校の工学科に所属している玉鋼美沙だ。
同じ2年生で、入学式の時にちょっとした事件がきっかけで話をするようになった。
小柄な体とメガネがマッチしていて、ルックス的には結構人気がある。しかし、人や空気を気にしないので、クラスの人たちとは疎遠だそうだ。
ちなみに愛称はタマである。
はがねは女の子らしくなくてあまり好きではないらしい。
「悪いな急に飯に誘っちゃって、相談したいことがあってな」
「もんふぁいふぁいひょ、ふぁひ」
「……食べてからでいい」
「ン」
「マスター!私も待ってください!」
「わかったわかった……」
ーーズズズッ コト
「つまり、本城の言うことをまとめるとシンクロ率をどうすれば上げられるかってことだね?」
「ああ、詳しいことが話せなくて悪いんだけど、なんとかする必要があるんだ。
「UNHの人工知能は凄まじい技術が使われているから、私の得意な工学的な話じゃなくて、心理学的な話にもなるね。二人ほどのシンクロ率なら日常的な生活で上げるよりも、新しい刺激に触れる方がいいと思う」
「そうか……!シンクロ率計測の際参考にする記憶を増やす……!」
「え?どういうことですか??」
「つまり、新しい刺激に対する気持ちを共有すると、そのことについての互いの認識は一致するだろ?その分は心を理解していることになる。最後にはパターンに似たような感じで思考を読めるようになるかもしれないってことだ」
「まぁ、そういうことだね。つまりカレン、沢山デートをすればいいってこと」
「素晴らしいアイディアです!最高です!」
少なくとも最後の一言は完璧に理解して、タマの提案を全力で褒めるカレンは。タマの手をとってブンブンと振り始めた
「ちょ……やめ……」
急に振り回されてちょっと慌てるタマ。
いつも冷静なのでこういう姿は珍しい。
一通り女子二人の(一方的な?)絡みが終わるまで、食後のコーヒーを飲む。あぁ美味い。
「はぁ……まぁそんな感じでやってみてよ。あってるかはわからないけど」
「ああ、ありがとな」
「ただ、言っとくよ。心ってのは読み合うものじゃなくて、信じ合うものなんだ。それじゃあね」
「お、おう?……カレン今のわかったか?」
「いえ、私もよくわかりません」
「まぁとりあえずなんだ。今度どっかにでも行くか」
「はい!!」
自分でも心を読めるようになるかもと言っていたタマの矛盾した言葉は少し気になったが、目の前の課題よりも大切ではない気がしたので、考えるのはやめた。