呼び出し
午前中の座学が終わった昼休み、学校の食堂は生徒で混み合っている。
ここの食堂は、寮生や先生達を始め、ほとんど全ての学生が利用する。
理由としては、さまざまなメニューが、軍人育成校に対する国からの支援により、豊富かつ安価でそろっているからだ。中には誰が食うんだこんなものといった奇妙奇天烈なゲテモノもある。
因みにUNHは食事をとる必要はないのだが、食事を楽しむことはできるのでとるものも多い。
そんな賑やかな食堂とは打って変わった、張り詰めた生徒指導室、別名<生きて出られぬ監獄>のドアの前に俺たちはいた。
この部屋の担当者である篠宮師匠に呼び出されたのだ。その部屋は生徒の間では最も近づきたくない学園の場所ナンバーワンである。
ちなみに俺達は今までも何度かきたことがあるが、やはり気は重い。そして扉の中から何も音がしないのが逆に恐怖心を煽る。
「カレン、先にドアを開けて入ってくれ」
「いやですよ。凪が先に入ってください」
「主人を先に行かせる気か?」
「しんがりの方が危険なのです。私はいつでもマスターのことをお守りしています」
「その言葉は嬉しいが、今は先頭の方が危険なんだ」
「そういって自分を犠牲にしてまで私を守って下さろうとしなくてもいいのです!」
「いや、お前より大切なものなんてない。だから先頭をいけ.これは命令だ」
「マスター…… わかりました。私が先に行きます。でも条件として、これが終わったらキスをしてください」
「なんだって!?」
「だから……キスです。だめですか??」
「……いいだろう。生きて出られたらな」
「本当ですか!?」
「ああ、ほんと…」
BoooooooN
ドアが吹き飛んだ。
木製とはいえ、しっかりと固定されている<生きて出られぬ監獄>のドアは勢いそのまま廊下の窓を突き破り、落下。壮絶な破砕音が4階のここまで聞こえてきた。
はんぱねぇ。
「私の前でイチャコラと夫婦漫才しやがって、死にたいようだな」
ドアの中から現れた篠宮師匠はリア充にたいする底の見えない怒りをまとった冷たい顔だった……。本当すみません……
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
「……ということで、以後私の前でイチャイチャしないこと」
指導室の中に入れられ、しぼられ続けられ、ようやく師匠の叱責が終わった。
後半は殆どが私怨によるもので愚痴のようになっていたが、遮るわけにもいかず、黙って聞いていた。
「あ、それともう一つ、お前らともう一組学校で優秀なペアに今度特別授業を受けてもらうからそのつもりでいろ。じゃあとっとと出て行け」
「なんですかその特別授業って」
「早く行け、質問は受け付けん。それとも私の言うことが聞けないと?」
「失礼しました」
ドアを素早くあけ、退出の礼をして外に出る。お説教Take2は心がもたない。
特別授業の内容は気になるが、いくら何でも学校の授業の一環なのだからそこまでひどいことはしないだろう。
時刻はもはや午後6時半をまわり、かなり遅いが、午後の授業のことは後日師匠がうまくやっておいてくれるだろうから心配はしなくていいだろう。内容は明日クラスメートにでも聞くとする。
カレンと二人で帰宅しようと校門を出た時には午後7時を超え、辺りは暗くなっていた。
帰り道では、一般的な高校生と同じように買い食いなどをして帰る時もあるが、今日は時刻が時刻なだけに真っ直ぐ家に帰る。
「マスター、お月様が綺麗ですね」
「そういえば今日は満月だったな、いつもよりは明るいわけだ」
「今日のお叱りは長かったですね」
「入る前にくだらない会話をしたから余計にな……」
「そういえば、キスはどうします?」
「あれ本気なのか……つけといてくれ」
「ふふっ いつかしてくださいね?
そういえば今日の実習でマスター狙撃されたの気がついてました?私がいなかったらどうなってたことか……」
「いたんだからいいだろ?それに俺はカレンなら守ってくれるって信じてるしな」
「と、当然です!
何があってもマスターは私が守ります」
嬉しそうに笑いながらそう言うカレンは月光に照らされているからなのか、いつもよりも頼もしく綺麗に思えた。