俺のもの
今回は佑君視点ですね。この話は弱狂気シーンが入ります。苦手な方はご注意を
水曜日の放課後。涼は部活だけど俺のバイトは休みだ。
だいたい水曜日は涼を眺めるために図書室にいる。弓道部の活動場所は図書室の入ったまっすぐ突き当たりの窓から見ることができる。
雪守の奴も水曜日の放課後図書当番だからしゃべっている。もちろん小雪も同じく待っている。あの子は雪守を待っているが。
ガラリ
「雪守。」
「………佑か。」
「小雪はきてる?」
「………もういる。」
「ん。」
突き当たりの机を目指して歩く。机にはすでに小雪が座っていた。
「あら。お先。」
「今日は先生に頼まれごとをされてね。断れなかった。」
「そう。もう涼は部活してるわよ。」
小雪の向かい側に座って窓を見る。下の弓道場を見れば真剣な目で弓を引く彼女。
「可愛いなぁ…。」
「あなたは涼の姿が見ることが出来ればなんでもいいくせに。」
「まぁね。」
部活をしている涼は普段のやる気のなさと違って凛としていて格好いい。
内心にやにやしていると
「佑。あなた顔にやけてるわよ。」
「顔に出てる?」
「ええ。はっきりとね。」
「そうか。まずいまずい。」
多分にやけているであろう口元を手で覆い隠す。
でも細くなった目は隠せていない。その証拠に小雪と雪守が二人とも呆れたようにこちらを見ていたから。
「………涼の奴。なんか絡まれてないか。」
「なんだって。」
雪守が呟いた言葉にあわてて涼を注意してみる。確かに知らない男子生徒に話しかけられている。
「絡まれているというよりは教えて欲しがっているって感じね。多分まだ涼のことを知らない子なんでしょう。」
「………うちの学年の奴ならむやみやたらと涼に絡む奴はいないだろう。」
「そうね。涼に手を出したら佑が黙っていないということを骨の髄まで叩き込まれているでしょうから。」
「………ならあれは二年か?」
「いえ。二年だとしても同じ部活にいるなら他の三年に教えられているでしょうね。だから………そう。多分新入生なのでしょう。」
「二年だろうが新入生だろうが関係ないよ。」
いつも通りの無表情。俺や雪守達じゃないとわからないだろうが涼は嫌そうな顔をしている。
「涼に手を出した罪はその身で支払ってもらおう。」
涼。涼涼涼涼涼涼涼涼涼涼涼涼涼涼涼涼涼涼涼涼涼涼涼涼涼涼涼涼涼涼涼涼涼涼。
俺の涼。
俺以外の男がその身に触れることなんて許さない。雪守達は例外だとしても。それ以外の男が涼に関わることが。その姿を視界に入れることが。その声を聴くことが。ほんの僅かでも涼の思考のなかに居ることが。
そのすべてが許されない。
「涼。」
君は俺のもの
「可哀想に。あの子もうここには居れないわね。」
「………居れないことだけならまだまし。」
「そうね。でもあの佑の様子からして多分この世に居られるかどうかも怪しいわね。」
「………恐らくあの新入生を見れるのは今日が最後だろうな。」
「やれやれ。涼はその事にきっと気づくことはないのでしょうね。」
「………佑が気づかせないだろう。」
「機嫌の悪いというか。不安定な佑になにかされなければいいけれど。」
「………無理だろうな。」
「佑。」
校門で待っていたら肩に弓を背負った涼がのんびり歩いて来た。そのまま隣に並び歩き出す。
「佑?どうかしたのか?」
不思議そうな顔で俺の顔を覗き込む涼。でもそれには答えず涼の手を握って少しは早足で家に向かった。
十五分ほど歩けば涼の家。俺は実家をでて涼の家に住んでいる。もちろん生活費だって入れている。ヒモみたいな生活なんてするものか。
「ただいま。」
「ただいま。」
誰もいない涼の家。涼の両親は五年前に亡くなった。スピード違反の自動車にぶつかった交通事故だ。犯人はすでに捕まっている。その事に涼がどんなことを考えているのかは知らない。………知りたくない。
家に入り玄関の鍵を閉める。それぞれの部屋に入って制服から部屋着に着替えてから涼の部屋に向かった。
「佑?やっぱり今日変だ。」
ベットに座る涼。そのまま押し倒して馬乗りになる。
「ずっとだんまりだし。それに」
泣きそうな顔をしているよ
そう言われてなにか決壊したように目から涙が溢れてきた。泣きながら手を涼の首に這わせる。
「涼。」
「うん。」
「涼。」
「うん。」
「涼。涼。涼。涼。」
「ほらどうして泣くんだ。」
「涼。君は。」
「ああ。」
「涼。君はずっと俺のそばにいるね?」
「そうだね。ずっと佑の側にいる。今までもそして多分これからもだろう。」
ボロボロと涼の顔に落ちる涙。涼は俺の涙を拭っていた。
「涼。」
「うん?」
「お願い。確かめさせて。」
ああ。君が俺から離れない何てこととっくに理解はしてる。でも時々とんでもない不安に襲われる。
いつか君が居なくなるのでは。俺を捨てるんじゃないかと。
俺の不安を感じとったのかはわからない。でも涼はこういうとき必ず俺にこう言う。
「いいよ。佑。君の好きなように確かめればいい。」
その言葉を聴いて俺はやっと安心して涼の首を絞めるのだ。
「ぐっ…。」
「ごめんね。ごめんね。ごめんね。ごめんね。ごめんね。ごめんね。ごめんね。」
俺は何度も謝りながらも決して涼の首を絞める力を弱めない。だんだん酸欠での苦しみで赤くそして潤んだ涼の琥珀色の瞳を見て満足する。
「涼。ごめんね。」
やがて意識を失ってぐったりとした涼を抱き締めて意識がないとわかっているけれど俺は彼女に愛を囁くのだ。
好きで好きで仕方がないんです。