ある日の休日
視点が一話ずつ交代します。はじめは佑君から
カチッカチッと時計の針が進む音がした。
この部屋の時計はずいぶん前に止まっていたからきっと気のせいなんだろうけど。
閉じていた瞼をゆっくりと開けて隣にいるはずの彼女を見るとやっぱりいた。
足を揃えて体育座りのような格好で本を読んでいる。
ソファに寄りかかればいいのに。
「涼」
呼び掛けても返事をしない。多分本に夢中になっているんだろうけど
「涼」
もう一度今度はすこし強めに呼ぶ。そうしてやっと涼は
「ああ。起きたのか。おはよう、佑。」
こっちには目もくれない。おもしろくなくて何度も名前を呼ぶ。
「涼」
「なんだ」
「涼。…涼、涼。」
何度も何度も呼べば呆れたように本から顔を上げてこちらをみた。
「なんだ…。一体どうしたんだ佑。」
「かまって。」
「構ってって言われてもなぁ…。」
「かまってかまって、涼。」
「はぁ…」
ため息をついて持っていた本を近くのテーブル
に置く。そうして手を伸ばして俺の頭をわしゃわしゃとなでまわした。
でも二、三回撫でると涼はやめてしまう。
「ほら、かまってやったろう。おとなしくしてなさい。」
「足りない。」
「どうしろと」
足りない。足りない。足りない。もっとかまって。俺のことだけ考えて。
「かまってくれないなら俺の好きなようにするからね。」
「えー…。」
俺のかまっては多分普通じゃない。でも涼はこのあとどんな行動をするのか分かってて好きにさせる。
涼が呆れてることも知ってるけど俺はコレをやめることはない。
そのことも涼はわかってる。
軽くため息をついた涼はもう完全に諦めモードだ。
どうにでもしてくれとでも言うような力の抜けきった体をやさしく押してソファに押し倒す。
涼の私服は首もとや袖がゆったりしているものが多い。基本的に無気力無関心な彼女の生活を管理しているのは俺だからまぁ俺の趣味だとも言える。
確かに俺の好みではあるけど理由はそれだけじゃない。
見上げてくる琥珀色の瞳にちょっぴりぞくぞくしながら彼女に覆い被さるように涼の首筋に口付けて。
その薄くて柔らかい首の皮膚におもいっきり歯を突き立てた。
「ッ…。」
僅かに漏れる声を聞きながら歯が皮膚に食い込んでいく感覚を楽しむ。
プツリと歯が皮膚を破り、肉に食い込むこの感覚が一番好きだ。
暫くしてから口を離すとじわじわと血液がにじみ出る。
血ももったいないから舐めちゃおうか。ペロペロと出てくる血液を全て舐めとる。1滴たりとも残さずに舐めきれば真っ白な涼の首筋に真っ赤な俺の歯形がついた。
「…あー。気は済んだか?佑。」
歯形を眺めて満足していたらもう疲れたのかぐったりとした涼が見上げてきた。
「んー。首は満足したからいいや。今日はやめる。でも手首とかは噛ませてね。」
「今やめるって言ったじゃないか。」
「それは首。他も噛みたい。手首で我慢するから噛ませて?」
「佑、手首じゃ済まないくせに…。」
本当は指とか噛みたいんだけど。涼は弓道部だ。だから指先とかは噛ませてくれない。だから妥協案として手首はオッケーにしてもらった。じゃないと俺のこの欲求が収まらない。
しぶしぶだけれども右手首を差し出す涼。
「なんだかんだ文句言いながら手、出してくれる涼が好き」
「それはよかった。」
差し出された手をとって涼を座らせる。そのまま俺も隣に座り直して手首にガブリと噛みつく。けれど今回は血がみたい訳じゃないから皮膚を破らない程度に力加減をする。
「噛むの好きだな佑。」
あぐあぐと噛んでいると涼から呆れた声が聞こえた。
噛みついていた手首から口を離して
「うん。好きだよ。」
にへらって顔が緩みながら返事をする。俺は涼が好きだし涼だから噛みたくて噛みたくてウズウズする。
そんな俺を目を細めて見る涼。
頭をまたわしゃわしゃ撫でてくれる涼の手が気持ちよくてもっとやってほしいからグイグイと頭を押しつけてねだる。
そうしたら小さく笑って涼はぎゅうって抱きしめて頭を撫でてくれた。
楽しそうな涼をみて俺も楽しくなってきて涼と二人きりでずっとじゃれあってた。
「涼。好きだよ。」
じゃれるのを一旦やめてそう言えば
「私も好きだと思うよ佑。」
と返してくれる。涼ははっきりと好きって言ってくれないけど俺はこれだけでも充分。涼を手に入れるためにやったことを考えるとちょっとだけ罪悪感が浮かばないこともないけど今が幸せだからいいや。
「涼。」
ソッとほっぺにキスをすれば目元を少しだけ赤くした涼が同じようにキスを返してくれる。そんな涼が愛しくてどうにかなりそうだったけけど。今日はたくさんわがままを聞いてくれたから満足して涼を抱きしめて笑った。
涼ちゃんが読んでいた本の内容はなんでしょうか