デスティニーワールド
「それはな…この世界の破滅だよ」
「世界の…破滅…?」
それはどういうことなんだ?
マジックアイテムに力があっても、世界を滅ぼす程の力は無いはずだ。
「マジックアイテムというのは、記憶を封じ込めている。お前の持ってるペインカタストロフは、魔神の記憶だな」
「そこまでも知っているのか…」
「当たり前だ、それより、鎌を離してほしいんだが」
「…分かった」
俺が言うとおり鎌を離すと、白黒の男は、鎌を一瞥すると、まるでペットボトルのゴミを捨てるかのように後ろに放り投げた。
「え…?」
鎌の飛ぶ先を見ようと視線を鎌に移しても、飛んで行った鎌の行方は何処へ、そこには何もなかった。
「おい、何を呆けているんだ。行くぞ」
「は?行くってど…こ!?」
俺が聞こうとした時には、白黒の男が俺の手首を掴み、引っ張られたかと思うと、さっきまでギルドホームに居たはずの俺の体は、なぜか宙を待っていた。
「うわぁぁぁぁ!?」
「うるさい黙れ、あぁ、あっちか」
その言葉を聞いた瞬間、また場所が変わり…いつの間にか、見覚えのある森の中に居た。
「ここって…」
「あぁ、ルイスの住んでた森だ」
「知ってるのか…」
白黒の男は謎が多すぎる。
俺が知らないことを知ってたり…まるで全知全能の神の様な人間。
女神様では、こうはいかないはずだ。
俺が考えている最中に、白黒の男が、手を差し出し、こう言った
「さて、通信機を出せ」
通信機…?あの、女神様との連絡用?なんでだよ…
「アイツと話したいことがある」
「話したいこと…ね…」
女神様のことをアイツって呼んでいるのだろうか。
疑心暗鬼になりながらも、通信機を取り出し、渡す。
カチッ…ヒュォン…
電子的な音を立てて、通信機はホログラフを映し出した。
そこには、いつもいるはずの女神様は居なくて、いつも隣にいるメイドだけが居た。
確か、エレナさんだったか…
「アイツはどうした?」
白黒の男がそう言うと、メイドは戸惑ったような顔を浮かべた後、何か思いついたような顔をして、こう言う
「あ…えーっと、白刃様じゃないですか、今日はどうしたんです?最近は連絡が無かったですが?」
白刃…?
「まぁ、色々あってな」
「では、なぜ、その時間の永綺様とご一緒に…?」
「通信機が壊れた」
「………」
「そう怒るなよ、いつものことだろ?」
「いつもだから怒ってるんですが…」
「まぁまぁ、ほら、出して」
「そんなドラえ○んみたいに言われても困ります。待っててくださいね………はい、これでいいですね、次は壊さないでくださいよ。」
「はいよ、大事に使うよ、じゃ、また今度……ほらよ」
そう言って、通信機を切ると俺に向かって通信機を投げつけてきた。
「さて、マジックアイテムについてだったな、マジックアイテムは特殊な道具と一般使用可能な道具があ る。
例を挙げれば時計とかその鎌だな」
「確か旧文明の遺産だったか?」
「そう、別名ディザイア、それがこの世界を動かしている鍵。
そして、その中でも記憶を持つディザイアは、世界を破滅へ導けるほどの力はある。」
「…つまり…?」
今の俺の情報力では何一つ掴めない、理解できていないのだ。
というか話が吹っ飛びすぎてる。
「ディザイアの記憶は、この世界の記憶であり、この世界の神の記憶。
その記憶を全てひとつにした時、この世界で唯一の神の封印が解かれる。
…神の名は《イフ》」
「イフ?イヴじゃないのか?」
「イヴはなんだっけ、アダムとセットだろ?
イザナミとイザナギみたいな」
「いやそんなバッサリじゃないと思うけど」
「イフは確か可能性とかそこらへんの意味だったはずだ。」
「だったはず…って…お前の情報量なんか偏りすぎ…」
「全知全能じゃないし仕方ないことだ。」
何でもできそうなこいつでも知らないことはあるのか…案外女神様並みの知能だったりして
「イフの封印が解かれた時、一人だけの願いを叶えてくれる…イフにとったら、人間への情け程度の無駄な力なんだけどな…あいつがこれやりたいなーとか思ったら、なんでも出来る。
唯一神ってのはそんなもんなのか知らないけどさ」
「なるほど、つまりイフはこの世界で唯一存在する神で、絶対的な力を持っていると、でも魔神は神じゃないのか…?」
「あ?魔神?あー、居たな、というかあったな」
「あった?物みたいな言い方だな?」
「物だろ、魔神の記憶を封じ込めたのがその鎌に付いてるソウルオーブだったっけ?
ソウルオーブってのは魂を封じ込めた宝玉だ
そして、その魂はひとつの欠片に過ぎない、魔神と呼ばれた者も元はイフなんだからな」
魔神さえもイフの魂の欠片…?
イフはどうして今存在しないんだ?
すると白刃という男は俺の心を読み取ったようにこう言った。
「そうだな、まずはある昔話をしようか、この世界の昔話だ」
「伝説とかそういうのだな?」
「あぁ、とりあえず…座りながら話したいし勝手にルイスの家でも使わせてもらうか」
「……わかった」
本当にこいつは謎だらけだ
声と特殊な力を持っているとしか今のところ分かっていない。
「歩きながらだけど、話すとするか、まずどこから話せばいいかな」
歩きながら顎に手を添え、考えるような仕草をしながらそう呟いた
「…昔、この世界にはイフという絶対神が居たってのは話したな?
イフは自分の安住の地を思うままに創造することが出来た。
住処のために大地を創り、世界を眺めるために緑を創り、退屈しのぎに生命も創った。
イフは自分が創った世界に、満足していたんだ、創られた世界もな。
だけど、そんなある日、二足歩行の動物が不満を訴えたんだ、俺たちのような人間が、だ。」
「イフは本当になんでもできたんだな、命を偽物だったとしても作れるんだから」
「あぁ、絶対神だからな」
白刃が溜め息まじりにふぅ、と呟くと、遠くにうっすらと見えるルイスの家を指差し、こう言った
「能力使っていい?歩くのめんどくさいしさ?」
「え?いいけ…ど…っ!?」
俺に拒否権も賛成権もないのか。
俺の言葉を聞く前に白刃は俺の襟首を掴み、瞬間的にルイスの家の扉の前に飛ばされた
「空から行った方が良かったかな」
「どっちもかわんねぇよ…ゴホッゴホ」
「さ、入るぞ」
人の家だってのに無断で入る白刃、ある意味尊敬さえ覚えてしまう
「さて、話しの続きをしようか」
家に入ると白刃の声が聞こえ、声の居場所を探すと白刃は、ソファに足を組んで座っていた。
「礼儀ってものはないのか?」
「ないってことで」
いい加減だな
「まぁ座れよ、話してやるからさ」
怪訝な顔をしながらも、白刃の正面に座る。
「さて、どっから話したかな、そうそう、人間が不満を訴えたところだな」
白刃が軽く息を吸い込むと、ゆっくり話し始めた
「人間の不満を聞いたイフは、自分が創ったものに不満があるなら、変えて満足させようと、人間の意思を聞き、期待に応えた。
生きるための食料、そして生きるための住処を、人間のために与えたんだ」
「絶対神なのに、かなり考えが甘いんだな」
「絶対神だからな」
またか、適当だろこいつ
「するとやがて人間の不満は無くなり、一段落したかと思えば、次は四足歩行の動物が不満を訴えにやってきた
鹿とか牛とかその他諸々」
「詳しくは知らないんだな」
「当たり前だ」
「堂々と言うな」
「…さて、そしてイフは動物の願いも叶えた
けどそれは人間の願いも奪うことになる、その矛盾を解決するべく、両方が納得するよう、改善した。」
「話逸らすなよ、それで、両方が納得?」
「人間から必要最低限以外を奪い、動物に、必要最低限を与えた。
人間からの不満も勿論あったが、こればかりはイフも断り切ったらしいな」
「へえ…そんなことがね…で?それがなんでさっきの話と繋がるんだよ、イフが今この世界に居ない理由に」
「ん?あぁ、そんな話だったな、まぁ、ここからだからゆっくり待てって」
白刃はコホン、と咳をすると続きを語り始める
「人間から奪われたものは多かった。
今まで神に無駄に貰っていた物を必要最低限まで削られたんだからな」
「随分、わがままな性格だな」
「人間なんてそんなもんだろ、さぁ、ここからが後半だ」
「今までは?」
「前半、奪われたものが多かった人間は、神に抗った。
神を封印する為の『式符』を作り出した」
「式符?」
「式符も知らないのか、これだから無知ってのは困るな…俺も最近知ったけど」
「おいてめぇ」
俺の訴えも無視し、白刃はこう続ける
「式符ってのは魔力のない人間でも簡単に扱える紙だよ」
「紙?紙なのに魔力無しで魔法が使えるのか?」
「そうだな…じゃあ、この紙を見ておけ」
白刃が服の内側から取り出したものは薄い紙で、紙の片面には紫色の奇妙な模様が書き込まれている。
「で?その紙がなんなん……っ…!?」
怪しい紙を見ていると、ほんの一瞬、目の前が文字通り白に染まり、反射的に目を閉じた。
眩しい光を視界から抑えるために閉じた目を、ゆっくり開く。
俺の前にさっきまで居たはずの白刃は視界からいつの間にか居なくなっていた。
「こういうことだよ、永綺くん」
後ろから声が聞こえると、肩を叩かれ白刃が姿を見せた。
「式符があれば魔力が無くても魔法が使える、でもこれは魔法と違って、自分の記憶を削る」
「記憶を…?」
「そう、つまり、記憶=魔力だ。
勿論、使いすぎればその先を記憶するための機能が失われるから、自らの記憶がなくなったその時、周りの記憶からも無くなり、忘れ去られ、消えていく。」
「…式符を完成させる為に、犠牲になった奴もいる…ということか?」
「当たり前だ、まぁ、記憶が無くなる事象は、イフを封印した時に気付いたものだ。
今じゃ、なぜこの式符が完成出来たのか、一切わかんねえけどな」
「式符を完成させた人間は、どうやってイフを封印したんだ?」
「さぁ?」
「は?」
「いや、知るかっての、いくら昔の書物を読んでも、その方法までは書かれてないんだよ。
その前のことはいくらでも書かれてるのに」
「じゃあ、イフは封印された後どうなったんだ?」
「言っただろ?記憶となり、神はこの世界で一人じゃなくなったんだ」
「この記憶をひとつにまとめると、イフがまたこの世界に降臨するのか」
「そういうこったな、くれぐれも全て集めるなよ、女神の命令だとしても絶対にだ。
アイツはまだ分かりきってない、イフの危険性を」
「そういや、白刃と女神様の関係性は?」
「あ?あー、今更だな、いいよ、教えてやろう、俺とアイツは夫婦だ、神に成り切れなかった人間、だけどな」
「今更、かなり痛いこと言うのはいいから」
「いや、嘘じゃねえから」
否定した白刃は、溜め息を吐くと
「はぁ…くれぐれも復活させるなよ……今まで………してきたんだ…今回こそは」
「わ、わかった」
「じゃあ、俺はそろそろ帰るわ」
白刃が扉を開けると、そこからすでに、飛び去っていった。
最後の部分は聞こえにくかったが、ディザイアには今後注意しなければならないようだ。