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呪いが分かつ二人

作者: 紅い華

何時からだったろう。

俺が昔を懐かしむようになったのは。

考えても意味のないことだとわかっていても考えてしまう。永く生きるようになってからだろうか。永遠に生きるようになると、下らないことまで考える用になる物だ。俺は庭先の墓石を見ながら考える。

考えても意味のないことを考え続ける。

庭先にあるのは家族の墓石。

「家族・・・・・・・ねえ。ハッ、くだらねえ。」

家族が死んだのはもう120年も前だ。俺は120年間ずっとだだっ広い家の中に一人だった。使用人は雇っているし俺も働いてはいる。それでも、俺には心から友と呼べる者はいなかった。

黒亜家の長男は呪われている。そういわれ始めたのはいつ頃だったか、110年前くらいからだったか。黒亜家の長男とは俺のこと、つまり俺は呪われてるって事だ。

「まあそりゃ120年間容姿も身長も変わらなきゃそう思うわな。」

「龍牙様。お手紙でございます。」

「お、あんがとな」

手紙の内容は物が壊れたから直してほしいとのこと。黒亜家は代々修繕屋みたいな物で、村のではちょっとは名の知れた修繕屋だ。

「修繕屋ねえ・・・・・・・笑わせやがる。」

表向きは修繕屋と言うことだけで、実際は陰陽師の一派だ。まあそのせいで俺が不老不死になったりもしたんだが。

「しかしまあ、陰陽師の仕事が減ったのはいいことなんだか悪いことなんだか。」

俺がいた120年前ではまだ仕事もあったが。今となってはほとんどなくなっていた。主な稼ぎは減った訳だが、まあ修繕の仕事で喰っていけないわけじゃないし、親の蓄えもあるから平気だ。

「どこへ行かれるのですか。」

「妃沙家だ。なんか直してほしい物があるんだとよ。」

「いってらっしゃいませ」

妃沙家までは10分もあれば着く。俺は修理道具片手に妃沙家へ向かう。

「お待ちしておりました。黒亜様。」

「直してほしい物とは?」

「それは直接ご主人様にお聞きなさって下さい」

つまりはそんだけやばい代物かもしくは

「よっぽど見られたくない物って分けか。」

「私には分かりかねますな」

無表情の執事の人はそっけなく答えた。

ま、何が来ても驚かんがな。

「こちらでございます。」

「黒亜龍牙、到着しました。」

「あなただれ?」

絶句

俺が見たのは俺とほぼ同年代で着物に身を包んだ女の子。しかもそれが似合うとかそんなレベルじゃない

それが一つの絵だと言われても俺はおそらく疑わなかっただろう。それくらい似合っていた。

「どうしたの?」

「え、ああ、いや、何でもない。ところで、俺に依頼を出したのは貴女か?」

「手紙なら出したよ。」

この子が今回の依頼者だった。となると見惚れている訳には行かなくなる。

「では、修理の品を拝見させていただいてもよろしいでしょうか。妃沙様。」

「うん、わかった。」

見せられたのは小さな木製のオルゴール。ボロボロになったというのと、音が鳴らなくなったので修理してほしいらしい。

「音楽機器、ですか。」

「うん。お母さんの形見。私が生まれた頃に死んじゃった。私の一族はみんなそうらしい」

「分かりました。少々高くなりますがお引き受けします。」

「これで足りるかな?」

「十分です。」

俺は修理に取りかかった。修理内容は至って簡単。ボロボロになったところは上から新しい木を貼り付け、音が鳴らないようになったのはピアノ線を取り替えてやるだけだ。

「修理終了です。これで元のように音楽を奏でてくれると思いますよ。」

「ありがとう。それと」

「それと?」

妃沙黒恵ひさくろえ。それが私の名。私には普通に話して、家の者以外の人間と話すのは久しぶりだから。」

「自己紹介どうも。なら改めて自己紹介だ。黒亜龍牙くろありゆうが。それが俺の名だ。」

途端にタメ口になるのもどうかと思ったが普通に話せと言われているし問題はないだろう。

「私たち、友だちだね」

彼女はそういって微笑んだ。予想もしなかった単語に俺は少し驚いた。


                          友達


俺にとって最も遠い位置にあった言葉。俺にはどんなにあがいても絶対に手に入らないであろうもの。

「生憎俺には友達と呼べる奴らがいなくてな。だから友達なのかどうか俺には分からない。」

「じゃあ私と一緒に学べばいい。」

思わず苦笑してしまった。私と一緒にってことはお前も知らないんじゃねえか、と。

「そうだな。」

「そうだよ。」

俺は内心少し迷った。呪われてると言われて、120年前の友達と死別してから俺は友達を作ろうとはしなかった。分かれるときがつらかったからだ。俺は昔何人の友達にうらやましいと言われた分からない。俺は死んでいった友人の方がよっぽどうらやましい。不老不死なんて言えば聞こえはいいが、実際は地獄だ。友人や家族が死んだ後にひとりぼっちで取り残され、老いることなく時間からも取り残されてただ一人生き続けるというのも辛い物だ。

「何考えてるのか分からないけど。君が何を思ってるのかぐらいは分かる。」

「俺が何を考えているかが分かる・・・・・ねぇ。」

「私のことは聞いたことある?」

「無い」

即答で答える。そういうと少女は語り出した。自分の過去を。自分の呪われた過去を。

「私の家はみんな短命。それもすごく。私は今16だけど、多分もうすぐ死ぬかもしれない。死ぬのが怖い訳じゃないけど、死ぬ前くらい自分の好きに生きたい。そのうちの一つが友達を作ること。もっともっとしたいことはたくさんある。だけれどそのどれもが自分一人じゃ楽しくない。だから友達がほしかった。そんなときにあなたの噂を耳にした。黒亜家の呪われた長男。黒亜龍牙あなたのことを。」

つまりは死ぬ前の思い出がほしいって訳か。納得した。

「それに私は120年前のあなたのことも知っている。」

「待て、お前今16だっていったよな。なんで120年前の俺を知ってる。」

「私は転生を繰り返してる。」

 

                          転生


そんなありえねえ話がある訳が無いとも思ったが、俺が不老不死だ。さらに昔には陰陽師なんて奇妙な職業が存在してるんだから不思議じゃないか、と思い直した。

「そこまで聞かせてもらったんじゃあこっちの話もしないと不公平だな。」

黒恵は少し驚いたようにこっちを見ていた。こいつは俺のことを呪われた長男としてしか知らなかったらしい。俺はこいつの友達になろうと思ったからこそ俺のこともすべて話そうと思った。

「俺は陰陽師だ。そして不老不死の人間さ。」

黒恵は絶句していた。当然だろう。短命の人間と不老不死。そんな対照的な人間が偶然の確率で出会ったのだから。

「俺の家系は陰陽師でな、偶然の産物かはたまた神の悪戯かは分からないが、俺は200年間続いた中で最も力が強くてな、親父が死なせてしまうには惜しいと考えたんだ。いろいろと試行錯誤した上で考えついたのが、輪廻記憶リザレクトメモリー、今までの先祖達の力を集め陰陽師としての俺の力を強化することを親父は考えたわけだ。その副産物が不老不死ってところだ。」

俺の過去、吐き気を催すような頭痛と恐怖の中、何度親父を恨んだか分からない。それでも俺は手に入れたこの力で誰かを守るんだって子どもながらに考えて耐えた。そして俺は誰かを守るためだけに力を振るうことを目的とした。その結果が不老不死という事に対する嫉妬と羨望の目。それに恐怖。得体の知れない。老いることもなければ死ぬこともない強大な力を持った少年。周りから見れば十分気味の悪い存在だっただろう。

「大変だね。」

「お前ほどじゃないさ。」

笑いあっていた。友達ってのはこんな感じなのかは分からないが、多分こんな感じなのだろう。端から見れば中が良いように見えるはずだ。

「じゃあ帰るわ」

「明日も来てくれる?」

「了解だ。」

笑って答える。そいつも笑っていた。そいつの部屋を出て、執事に案内されながら出口まで来たところで執事が唐突に口を開いた。

「ご主人様と中がよろしいようですね。」

「そう見えますか?」

「私からの別件の依頼をしてもよろしいでしょうか。」

「私は修繕屋ですし、私にできることであれば多少の無茶は聞きますよ。」

執事は首を振り、そう難しいことではありませんと前置きをしてから言った。

「どうか、あの方と仲良くしてあげて下さいませ。」

「・・・・・黒恵のこと・・・・・・ですか。」

「左様にございます。一日中たった一人でオルゴールで音楽を聴いていられるあの方が不憫でございまして。それに老い先短い身。あの方の願いを、叶えて差し上げたいのです。」

「その依頼は引き受けることができません。」

「何故です!?」

「俺が思っているだけかもしれないですけど、友情ってのは依頼とか押しつけでやる物では無いと思うんですよ。それに、俺は一応あいつとは友達のつもりです。それにもしかしたら」

今日この日。あいつと出会って少し話をしただけでずいぶん変わった自分を皮肉に思いながら告げる。

「多分俺はあいつに惚れています。俺は個人的にあいつの願いを叶えてやりたいんですよ。友達ですしね。」

執事のおじさんは何も言わずに、憑き物がとれたようなすがすがしい顔で頭を下げた。

その日から俺はそいつの思い出作りにつきあった。

村を出て、森の中ではしゃぎ回り。互いにくたくたになったり。村の中の甘味処で氷菓子を並んで食べたり、出店を冷かして、店主のおっさんから怒られたり、夏祭りの屋台を回ったり。とにかくたくさん遊んだ。

五年の歳月なんてあっという間だった。

五年たって、アイツは逝ってしまった。俺の手の届かない所に。

21才になって、あいつは死んだ。俺を残して、逝ってしまった。

俺は泣いた。何日間泣いたか分からない。とにかく泣き続けた。

俺はまた無気力に生きるだけの日々に戻った。

変わった事があるとすれば、庭の墓石が一つ増えた。


                   あれから―10年がたった


俺は庭を見て座っていた。すると、背中に何かが乗っかった。

「みいつけた♪」

「っ!!お前!?」

俺の背中に飛びついてきたのは、黒恵だった。こいつは、死んだはずなのに。

「お前!!何で生きてっ!!」

「いったじゃん。転生するって。ん~?最愛の人が生きてたって言うのにうれしくなさそうじゃん」

俺は何も言えなかった。とにかく抱きしめていた。

「ふぇっ!?」

「うれしくねえわけ・・・・無いだろ!!」

俺は抱きしめた、二度とこのぬくもりが逃げないように、もう二度とこいつのことを逃がさないように。

強く強く、抱きしめた。

「ちょ、ちょっとー。抱きしめてくれるのはうれしいんだけどさ、いつまでこうしてるつもりなの-?さすがに恥ずかしいよぉ」

「あ、あぁ。悪い。」

「ま、でもうれしいよ、そこまで想ってくれてるのなら。」

その日から俺と黒恵は、一緒に暮らすようになった。かなり性格の変わった黒恵だったが俺はこいつのことが好きだった。俺は外に働きに出るようになった。さすがに修繕屋の収入だけじゃ喰っていけなくなったからだ。年月なんて物はあっという間に過ぎていく物で、気がつけばこいつと俺が一緒になってから6年が経っていた。

俺はしばらくの間外に出ることになった。

黒恵の腹の中には子どもがいた。

だから黒恵は連れて行けなかった。

だから俺一人で行くことにした。

俺は幸せすぎて忘れていた。

           ―黒恵は短命だと言うことを―

「すぐに帰ってくるって言ってんだろ、そんな泣きそうな顔するんじゃねえよ。」

「泣いてないー!もういいからさっさと行きなよー。」

「へいへい。じゃあまた2ヶ月後に合おうぜ。」

「うん」

列車は出て行った。駅からの帰り道は森の中を通らなければならない。冬だったから、雪の降る帰り道は寒かった。

「ごめん龍牙。約束・・・・・・守れない。」


 ― 少女は知っていた ―


「私ね・・・・・・たぶん子供産んだら死んじゃうと思う。」


 ― 少女には一つの願いがあった ―


「私は・・・・・・もっと彼と一緒にいたいのに・・・・」


 ― 少女は叶わぬ願いを叫ぶ ―


「私は・・・・・・・・・もっと彼と一緒に生きたいのに!!!!」


 ― 少女は雪降る森の中で叶わぬ願いを泣き叫ぶ ―


 ― そして届かぬ声で ―


「・・・・・騙してごめんね。」


 ― 小さなつぶやきは風に溶けて森に消える ―


帰ってきたときには彼女はもういなかった。赤ん坊だけを、執事が抱えていた。俺が帰ってきたときには彼女はすでに死んでいた。俺は最後に立ち会うことすらできなかった。

「馬鹿だ・・・・・・・・・・俺は」

忘れていた。俺は幸せすぎて黒恵が短命だと言うことを覚えていなかった。

「何が・・・逃がさないだ・・・・・・!!何が・・・・離さないだ・・・・!!」

俺は黒恵の部屋で手紙を見つけて読んでいた。その内容は衝撃的だった。

「俺は・・・・・何も知らなかった・・・・」

 ― 守られていたのは・・・・俺のほうだった。―

それから10年が過ぎた。

「あなたは・・・・・私のことが嫌いなの?」

「それはねえよ・・・・・・」

3人目の、黒恵。本人は転生した。と言い貼っていた。けど俺は知ってた。

「外歩こうぜ。」

「え?」

「散歩に行こうぜ。」

俺はあの日。最後に黒恵と別れた場所を歩いていた。

「お前さぁ・・・・・転生とかしてないだろ?」

「そんなことは「知ってんだよ」」

「知ってんだよ。全部。」

俺はそういって手紙を見せた。

「悪い。見ちまった。んで、全部知っちまった。」

手紙には書いてあった。転生の真実が。


私の命は短い。私はあの人に言えなかったことがたくさんある。私は彼を愛していた。けどあの人は私より遙かに永く生き続ける。けれどあの人は私がいなくなれば多分不死である間を泣いて、悲しんで過ごすことになるだろう。私はそんな彼の姿を見たくない。だから―だから次の私よ、どうか彼を愛してほしい。

彼を―悲しませないであげて下さい。


「手紙の内容はそうだった。アイツらしいよな。」

俺は苦笑しながら

「優しいよな・・・・自分のことより・・・・俺のことを考えてさ、優しい嘘をつき続けてよ・・・・」

多分俺は少し泣きそうな顔になってると思う。声も少し涙声かもしれない。

「だからもういい。アイツのふりは・・・もうしなくていい。」

黒恵は少し黙って、それから叫んだ

「じゃあなんで・・・・・。じゃあなんであなたは私に優しくしてくれるの!!それなら私のことを恨んだっておかしく無いじゃない!!」

泣きそうな顔で、今にも泣き出しそうな声で叫んだ。

俺は微笑んで

「恨むわけねえだろ」

「何でよ!!」

今にも泣きそうな顔で黒恵が聞いてくる。

「ずっと嘘ついてたんだよ!あなたを・・・・」

少し言いよどんで

「愛してなかったかも知れないんだよ・・・・それでもあなたは許せるの・・・・?」

そして耐えきれなくなったのか、うつむいて

「私達はあなたを・・・ずっとだましてたんだよ・・・・」

消え入りそうな声でつぶやく。

「あなたは私を・・・恨んでないの・・・・?」

俺はそんな姿を見て。苦笑して

「俺の事好きでも無い奴があんな手紙残すわけねえだろ。それにさぁ・・・・」

空を見上げ、遙か遠くを見るように。

「自分の娘を恨むわけ無いだろうが・・・そんなことすりゃあ・・・アイツに怒られちまうさ・・・・」

黒恵は泣き出した。耐えられなかったんだろう。俺は優しく黒恵を抱きしめた。

「寒くなる。帰ろうぜ。」

「うん」

黒恵と帰る。

「ありがとう。お父さん。」

寒空の下、永遠の命を持った少年とその娘を空が見ていた。

笑顔で笑い合いながら、手をつないで歩く姿を空だけが見ていた。

寒空の下叫んだ少女の悲痛な願いを、空だけが、知っていた。

短編を書いてみたかったし。泣ける話を作りたかっただけです。

しかし・・・・・俺の場合悲しい物語を書こうとするとどうしても恋愛系に為ってしまうんですねえ。

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