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双剣の舞姫  作者: 黒猫るぅ
将軍の息子、甘える。
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 どうする、というようにヤマはイズニークを見る。


 視線を感じたイズニークは、穏やかに微笑む。


「運がよいな、ラティー殿。我らは丁度、旅に飽きていた所だ。数日滞在するくらい、よいだろう。だが、イズニークの腕は金で買えるようなモノ

ではない。引き替えとしてそなた、なにを差し出す?」


 獲物を捕らえた獣のような気配で、ヤマは底光りする黒い瞳をダラティエへと向けた。

 ひるみながらも、ダラティエは見返した。


「占をいたしましょう。失せモノ探しは得意ですもの」


 にやりとヤマは笑い、腕を組んでダラティエを見下ろす。


「よかろう。ではアニュス=ディを」


 どうやらヤマ王のたくらみ通りに事を運んでしまったようね。


 おもしろくなく思うが、仕方がない。


「承知いたしました」


 ダラティエは気持ちを切り替え、イズニークを見た。


「ではイズニーク様、その楽器の形を思い浮かべてくださいませ」


 イズニークは楽器を背に置きながら、首を振る。


「アニュス=ディというのは、師匠が手に入れたことのあるモノ。もう喪われてしまったと仰っていました。けれど私のモノは、必ずどこかにある、と」


 曖昧な物言いにもダラティエは動じず、軽く頷いた。


「ではそのモノの形でもよいのです。知る限りの特徴を教えてくださいませ」


「それは、至上の音色を響かせ、すべてを投げ出してでも手に入れたくなるほどの美しさだと」


 穏やかな語りの中に、イズニークの熱い想いが込められていた。


「わかりました。占ってみましょう」


 ん、と怪訝に見下ろすヤマへ一瞥を返す。


「別に仰々しい道具などいらぬのですよ、ヤマ王。稀に見る占者ですから」


 嫌みを込めて言い放ち、ヤマの反応など興味がないようでさっさと目を閉じ集中する。


 占う意識の領域へ降りるのはたやすかった。まばたきするほどの短さで占者独特の意識下へ入る。


 イズニークの想いを探りながら、それがどこにあるのか思念をさまよわせる。


 占の学校であるディベルティメントでは、世界地図を思い浮かべる訓練をした。けれど、あちこち放浪しているダラティエは、自分で見た景色を混ぜながら思い浮かべることができる。見覚えのある幾つかの風景がよぎった。どうやら対象物は異動しているらしい。


 では今は?今はどこにあるのか。


 す、とダラティエの瞳がわずかに開く。半眼のまま、宙を見つめる。


『ルナリア』


 ダラティエのこれまでの声とは違う、奇妙に響く声でそう呟き、がくりとうなだれて椅子にもたれかかった。


 占は時にとても体力を奪う。


 ふぅ、と息をつき、汗のにじんだ額を押さえる。


「ただの楽器ではなさそうねぇ」


 つい王女様の演技を忘れて呟き、イズニークを見た。


「そうでしょうね」


 当然だというように頷き、イズニークは微笑む。


「イズニークの師もルナリアで見つけたとは聞いていた。縁があるのだな」


 やれやれ、と滞在が長引きそうな気配に、うんざりしたヤマが呟いた。


「あちこち異動しているようですわ。今はルナリアに。けれど…ただの楽器にしては、ちょっとねぇ」


 見つけたときの感覚を思い出す。


「もっと生々しい、まるで生きているかのような手応えだったけれど」


 変ねぇ、と気味悪げに眉をひそめる。生きてる楽器だなんて、ゾッとするわ。


「そうかもしれませんね。よい楽器は、時に感情があるかのように振る舞うことがありますから」


 にこりと笑んだイズニークは、流れるような仕草で礼をする。


「お約束通り、他の方々にお聴かせいたしましょう」


「ありがとうございます。ではその素晴らしい演奏にふさわしい場を用意いたしますわね。このように響きの悪い部屋で演奏して頂く訳にはまいりません」


 宴の場を開くことをほのめかし、ダラティエは二人の退出を見送った。


 立て付けのいい扉は開閉の音がしない。けれどわざとに聞こえるよう音をたてて、キーエンスは支度部屋を出た。


 満足げな顔をしていたダラティエは名残惜しげに去る二人を見送り、ようやくキーエンスを見た。


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