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双剣の舞姫  作者: 黒猫るぅ
嘆きの日
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     9

 この方は、戯れで私に言い寄っていた訳ではない。


「どうやら異国の高貴な方のようだ。よろしければお名前をお聞かせ願いませんか」


 アルカイオスの言葉に、仮面の男は軽く肩をすくめる。


「今夜は忍びでな。…先に王に挨拶するのが筋であろうよ。ではのちほど、我が姫」


 ひらり、と粋な仕草で手を挙げ、王のいる辺りへと立ち去っていく。その身のこなしは、一国の王である威厳があった。


 我が姫、だと!


「!」


 かっとなったアルカイオスが何か言おうをするのを、キーエンスはアルカイオスの胸に手を当て、止めた。


「わたくし、疲れたわ…兄様」


 エレンテレケイアの声を消して、キーエンスの声で囁くと、アルカイオスは怒気を収め、顔を強ばらせながら舞踏室の出口へと向かう。

 視線で侍従を促し、扉を開けさせ、王族の居室へ向かう回廊へと向かう。

 抑えた怒気の表れか、キーエンスを抱くアルカイオスの手に力がこもっていた。


------熱い…たぎるような想い。


 それを肌で感じ、キーエンスは戸惑う。


「もう…大丈夫です。アルカイオス様」


 降ろして欲しい、と言外に告げるが、アルカイオスは聞かずに歩を進める。見慣れぬ風景が視界に飛び込み、キーエンスは息を飲む。


「この先は…」


 かつての王妃達が所蔵していた装飾品を収める宝物庫が続く。王族の許しなくば、誰も立ち入る事を許されない区域。

 未だ怒気がくすぶるアルカイオスの内心を感じ、キーエンスは恐る恐る、言葉を選んだ。


「--イオ…」


 とても大きな声で言う事などできず、それでもアルカイオスの耳にしっかりと届くように、彼の首に手を絡ませ、耳元で呟いた。

 ぴたり、とアルカイオスは歩みを止め、キーエンスを見降ろす。

 キーエンスが見つめ返すと、一瞬で顔を朱に染めた。

 ぐらり、とアルカイオスは膝を崩して座り込む。キーエンスは慌ててアルカイオスにつかまった。


「す…すまないキース…、ケガはないか」


 赤い顔のまま、どぎまぎとキーエンスの身を見回す。


「立ちくらみですか?どこか具合が悪いのですか?」


 逆にキーエンスがアルカイオスの膝に手を当てると、アルカイオスは慌ててその手を握る。


「ダメだ…その、あまり動かないでくれ。そう、めまいがするんだ」


 益々顔を赤らめ、それでもキーエンスの手を放す事はなく、アルカイオスは照れたように笑う。


「正直に言うよ。…君に名を呼ばれて、腰が砕けた」


 凄い威力だ、と笑いながら言う。


「腰が痛むのですね?」


 小首をかしげ、心配そうに見上げるキーエンスを、苦笑して見返すアルカイオス。

 怒気は綺麗に消え失せているのを、キーエンスは感じた。

 けれど、くすぶる熱情の存在を感じる。それが一瞬にして、あつく燃え上がる。

 笑みを消したアルカイオスは、素早くキーエンスのうなじに手を伸ばし、引き寄せた。

 情熱そのままに激しく唇を吸われ、キーエンスは身悶えする。その動きに刺激されたアルカイオスは、うなじから腰へと手を滑らせる。弓なりにしなる身体を抱き、細く柔らかな首筋に唇を這わせた。


「------イオ…」


 苦しげにあえぎながら呟いた言葉に、アルカイオスはまたぴたりと動きを止める。


「…すまなかったキース」


 首筋に唇を当てたまま呟き、ふっとアルカイオスの腕から力が抜ける。


「もっと優しく口づけするつもりだったのに…余裕が無かった」


 そっと身体を離し、キーエンスの乱れた髪を撫でて櫛付ける。


「怖かったろう?」


「…いえ…」


 怖くはなかった。それは本当だが、その意味することに気づき、キーエンスは頬を染める。


「いえ、その、そういう意味ではなく------」


 アルカイオスの未だ熱い指先が、キーエンスの唇に触れた。


「言うな、キース。…わかっている」


 強く吸われたせいでわずかに腫れ、赤く濡れた唇にそっと指を這わせ、アルカイオスはキーエンスを見つめる。

 未だ、熱情がくすぶっているのを、その瞳の奥に感じた。


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