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双剣の舞姫  作者: 黒猫るぅ
嘆きの日
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     8

 病気がちなエレンテレケイアに代わり、これまで何度も踊りをこなしてきた。

 小柄な身体でありながら、体術や剣の訓練などで鍛えられた手足はしなやかに動く。

 身体を動かすと、これまで心で渦巻いていた煩悶が薄らいでいった。

 美しく弧を描き、流れるような二人の足運びは見事で、ホールにいた者達はそっと場を明け渡す。

 アルカイオスに支えられながらくるりと身を翻し、ぴたり、と踵をそろえて動きを止める。一呼吸おいて、ゆっくりとお辞儀をした。キーエンスの背に軽く手を添えながら、アルカイオスも控えめに礼をする。

 どっと拍手が沸き起こった。


「なんとみごとな」


「すばらしいですわ」


「次はわたくしと踊っていただけますね、王子」


 高位の貴族の娘がずい、と前に出て、アルカイオスの腕に自らの腕を絡める。


「いえ、私は…」


 ぐいぐいと強引に引かれ、アルカイオスはキーエンスから離れてしまった。


「では姫は私と」


 我先に、と貴族や領主の嫡子達が近づくので、キーエンスは慌てて逃げる言い訳を言おうとした。

 しかし、その腰に素早く手をまわす者がいた。


「さて参ろうぞ、姫」


 長身で、しっかりとした体つきの青年だった。

 控えめだが特上の絹を使った衣装は、気品に溢れる青年の風貌によく似合っている。

 衣装とそろいの色で作られた仮面も、近くで見れば複雑な細工が施されている。

 まるでどこぞの王族のようなその風格を読みとり、キーエンスは警戒しつつも下手に逆らわぬほうがいいと判断し、導かれるまま、ゆっくりと彼の足並みに合わせて歩き出した。


「やはり姿絵などより、動いているそなたの方がよいな」


 悦に輝く目は黒く、仮面の奥で細められた。

 にこり、とただ笑いを顔に貼り付け、キーエンスは応えることなく、ただ踊る。


「声を聞かせてもらえぬのか?つれないことだ…」


 ふん、と男は鼻を鳴らすが、愉快そうに口元に笑みを浮かべている。

 男はそのまま、笑みを意地悪そうにゆがめる。

 ふと、嫌な予感が脳裏によぎり、咄嗟に顔を背けた。

 男は掴んでいたキーエンスの手を放し、指先でキーエンスの腕をなぞりながら両手で腰を支え、抱き寄せた。

 ぞわり、と悪寒が背筋を這い上がる。男の冷たい唇が、うなじに触れていた。顔をそむけていなければ、唇が奪われていた。


「ヤマ国へ嫁げ。私はそなたが傷物でも気にせぬ」


 耳元で低く囁いた。

 見ずとも、男が笑っているとキーエンスはわかっていた。

 笑みを貼り付けたまま、キーエンスは身を離し、踊る。けれど、指先が冷え切っていくのは抑えられなかった。

 視界の隅に、貴族の娘からどうにか逃れたアルカイオスがよぎる。

 ひらり、とキーエンスは身を翻し、仮面の男より身を離す。そして愛らしく微笑み、お辞儀をした。


「まだ曲は終わっておらぬぞ?」


「申し訳ありません。わたくし、足を痛めてしまったの…お兄様」


 背後より足早に歩み寄るアルカイオスに手を伸ばす。


「無理をしてはしゃぎすぎたね、妹姫」


 アルカイオスは優しげな口調とは裏腹に、強い瞳で仮面の男を一瞥し、キーエンスを引き寄せ、抱き上げた。


「お兄様」


 なにもここまでしなくても…。


 見上げたキーエンスへ視線を戻し、アルカイオスは笑みを消した。


------嫉妬…。


 浮かんだ言葉に、キーエンスは愕然とする。


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