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双剣の舞姫  作者: 黒猫るぅ
嘆きの日
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     7

「血が…こんなに…」


 床から、アシュトンの腕、そしてエレンテレケイアの下腹部へと鮮血が続いている。


「ああ…」


 悲しげにうめく声が、エレンテレケイアの口から漏れた。


 赤ちゃんが。


 傍にいたキーエンスは、聞こえてしまった言葉に、息をするのも忘れてしまう。


「わたくしが医者を呼びます。…後のことはまかせなさい、キース」


 怒気を押し殺し、静かに言うシーリーンと目を合わせ、キーエンスは呆然とした。


 そう、お前の考えている通りよ。


 シーリーンの声のない言葉が聞こえた。


「舞踏会に出る準備をなさい」


 冷ややかに、シーリーンの声が響く。


「…知らぬフリをして…踊れと?」


 ひやりとしたシーリーン手が伸び、キーエンスの頬を軽く叩く。


「そのためのナナイです。行きなさい」


 すすり泣きと、濃厚な血の匂い。それらを背にして、キーエンスは部屋を出た。

 

 軽やかに流れる管弦楽と、至る所に飾られた花々の香りが漂う舞踏室では、華やかに着飾った貴族の娘達と領主の嫡子達が、視線を交わし、談笑し、駆け引きを楽しんでいた。

 見えぬ酒の甘い香りに酔ったかのように、気だるく、退廃的な気配。

 それは先ほど嗅いだ血の匂いを思い出させ、キーエンスは踊る気になどなれなかった。


「…顔色が悪いね。やはり風邪をひいてしまったのかな?」


 アルカイオスがそっと水の入った銀杯を差し出してくれた。


---この方は、何も知らないのだろうか。


「ありがとう、お兄様」


 にこり、と笑みを作る。けれど何故か今夜は、うまくエレンテレケイアの笑顔になれない。

 それに気づいたのか、アルカイオスはふと気遣わしげに表情を曇らせる。


「今夜は早めにお下がり。このところ行事が続いたのだから、疲れたのかもしれないね」


 声を落とし、ナナイである臣下に言う口調で言う。公式の場でそのような言葉を言わせてしまったことに気づき、キーエンスは気を引き締める。


----今は、仕事に集中しなくては。


「さきから引っ張りだこだもの、踊りすぎて疲れているのはむしろお兄様よ」


 エレンテレケイアらしく、上目にアルカイオスを見る。


 おやおや、とアルカイオスは肩をすくめ、キーエンスががんばるつもりなのを苦笑して見返した。


「そうだね。ではあと一曲で今夜は仕舞いにしよう。よろしいかな、妹姫殿」


 気取った仕草でキーエンスの手を取り、深々と礼をする。


「よろしくてよ、お兄様」


 花がこぼれ落ちるような笑みを浮かべ、優雅に礼を返す。手をとり歩み出た二人を、ホールにいる者達は注目した。

 軽やかに響く曲に合わせて二人は一礼し、踊り始める。


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