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双剣の舞姫  作者: 黒猫るぅ
隊長、本気になる。
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 今度は書き写す物を持ってこよう。


「ルナリア成立後の先住民との戦いの陣営についてえがかれています。できるだけ殺さぬように、けれど相手が降伏するよう権威を示しながらの戦いだったようですね」


 余韻に浸りながら、冷めかけたお茶を口に運ぶ。

 岩のように固まったエウリムがこちらを凝視していることに気づき、キーエンスは小首を傾げる。


「どうかしましたか?」


 微笑むと、ほんのりとエウリムの耳が赤くなる。それに気づいたイオとケルズが声をあげて笑い出した。

 なぜかぐったりとしてため息をつくエウリムと、椅子から転げ落ちそうになりながら笑うイオ、そしてケルズを見やり、キーエンスは不思議そうにしながらも微笑む。


「なにが楽しいの?」


「な…なんでもない、カダール嬢」


「人の恋路って見てると楽しいんだなぁ」


 涙を拭きながらイオは言い、別の本をキーエンスに渡す。


「僕、古代公用語は読む気にならないや。あとで教えてよ」


「いいよ」


 機嫌のいいキーエンスは素直に頷き、受け取った本を再び読み出す。それを満足げにみやり、イオは爽やかな笑顔をエウリムに向けた。


「がんばれご主人様」


 イオの意を汲んで、ケルズが再びはやし立てる。

 長剣の柄を握りしめ、震わせながらエウリムは歯をくいしばる。

 なかなか名を呼ばないエウリムにしびれを切らし、イオはきらりと目を輝かせた。


「キーエンスはね、元恋人に唇を奪われたんだってさ」


 さらに胸元を指さす。


「この辺まで、口づけの痕を付けられたらしいよ。それ以上は許すなって、バンキム様に言われてるみたい。つまり、恋人になったら、そこまではしてもいいってことだよね?」


 がんばって、グレリー様。と言い募る。

 ぷつり、とエウリムの中で何かが切れた。ケルズは笑いを凍らせ、後ずさる。


「おい坊ちゃん…それ嘘じゃないだろうな」


「カードで負けた時に言ってたから、本当だよ。僕も姫とどこまで行ったか正直に話したしさ」


 そういう時に嘘を言うようなヤツじゃないよ。とイオはエウリムの様子に気づかずに言う。ケルズはエウリムから離れて、感心しながらイオを見下ろした。


「いい仕事するな、坊ちゃん。俺がどんなに煽っても、なかなか名前は呼ばなかったのに」


 長剣の柄を握る事も忘れ、エウリムは身を乗り出してキーエンスの耳元に口を寄せる。


「キーエンス」


 名を呼ばれ、本から目を離したキーエンスは、薄青の瞳をエウリムへと向けた。


「はい?ごめんなさい。本に夢中になっていました」


 微笑まれ、エウリムは再び固まる。

 ああ、とケルズは額に手を当てる。ここまでが限界か。


「そうだ、聞きたい事があったのです、グレリー様」


 本を閉じ、エウリムが固まっている事に気づかず、キーエンスは言葉を続ける。


「遠征先へお招き頂いたことはとても嬉しいのですが…」


 さっとエウリムの顔が青ざめる。


 …断られるのだろうか。


「…私がバラライへ行くと、ルナリアの社交界ではあまりよろしくない噂が立つらしい。それがグレリー様のお名前に傷をつけるのではないかと思うのですが?」


「まさか。カダール嬢と私の事が…そのように、噂されたとしても、気にしない」


 言葉を選びながら言うエウリムに、ほっとしてキーエンスは笑いかけた。


「むしろ好都合」


 にやりと笑い、ケルズはいれたての熱いお茶をキーエンスのカップにそそぐ。


「あーあ、トッソやカインに女の子紹介しなきゃな。噂を聞いたら泣くよ

きっと」


 イオは大きく伸びをしながら言う。


「はっきりと断っている。期待は持たせていない」


「はいはい。可哀想なくらいきっぱりフッてくれたよね、僕の友人を。それでもさぁ、男ってバカだからさぁ、こんな風に可愛く着飾れられるとコロっと好きになっちゃうみたいなんだよねー。キーエンス見てると女の子って怖いなぁって思うよ」


「人を魔物かなにかのように言うな」


「どう違うのさー。僕にとっては女の子ってそんな感じだよ」


 疲れ切ったため息をつく。


「美しく装い高い声でさざめき、たまにじっと見つめること。それが女の武器なのだと母上が言っていた。…私はあまり使わぬがな」


 読みかけの本へと手を伸ばす。


「ひえー、使われたいな、母上殿に。バンキム殿が参った位なんだから、美人なんだろう?」


 そう言うケルズに頷き、キーエンスは本の背をそっと撫でる。


「父上とは違う怖さを持っている方だ。…そうか、兄上と性格が似ているかもしれないな」


 冷静さと情熱を併せ持つ彼ら。心を捧げる者のためならば、いかなる手段も厭わない

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