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双剣の舞姫  作者: 黒猫るぅ
将軍の息子、恋をする。
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10

 キーエンスに小突かれる前に、当主であるエウリムに挨拶し、ルッキアの知り合いや配下の貴族にも挨拶を済ませる。

 どうだ、というようにキーエンスを見るイオに、頷いてみせると、笑みを残して庭へと駆けていった。それを見送り、さざ波のように寄ってくる少年貴族へと笑みを向ける。


 さて、どう逃げようか。


 前回のような手はもう使えない。彼らも学んだはずなので、今度は別の方法を使わなければならない。

 と、少年貴族達のさざ波がぴたりと止まる。彼らの視線を追い、近づいてくる青年の姿に気づいたキーエンスは、扇を広げてつましく顔を俯かせた。


「カダール嬢…その…」


 当主、エウリムはちらりとバルコニーと様子を窺っている少年貴族を見やる。

 どうしたものか、と言葉を続けられぬ当主に、執事の青年がなにやら耳打ちした。


「よろしければ、下のテラスで…お茶でもいかがかな」


「…喜んで」


 ぎこちなく差し出された腕に手を添え、いくつもの視線を感じながらも流れるような仕草で退出した。執事は気を利かせてか、離れて着いてくる。

 ぎくしゃくと強ばった動きでキーエンスを連れたエウリムは、階下の部屋の扉を開きキーエンスを招き入れた。扉を閉めかけてから、慌てたように開く。年頃の娘は、締め切った部屋になど入ってはいけないのだ。例外もあるが。


「その…」


 困ったように目を泳がせ、いない執事を求めて扉を見る。

 キーエンスは扇を閉じ、社交の苦手そうな当主を見上げる。


「先日は失礼いたしました、グレリー様。はしたないところを見られてしまいましたわね」


 にっこりと笑いかけると、なぜかさらに緊張させてしまったようで、エウリムの表情が強ばる。


「やはり…人違いをしているのかもしれぬ。申し訳ない、カダール嬢。その…バンキム殿にはご息女がおられるはずだが、貴女の他に…いや、それでは失礼になってしまうな」


 ぼそぼそと言い、口を閉ざしてしまう。


「父をご存じなのですか?」


「いや、会ったことはない…いや、前年の闘技場にて少しご一緒したのみ。その時に、ご息女がいらしたのだが…」


 探るようにキーエンスを見る。


「あ」


 脳裏に蘇る記憶の中に、当主エウリムの姿があった。


「鎧の騎士様ですね」


 社交用の笑顔を捨て、素の顔で笑うと、エウリムはホッと肩の力を抜いた。


「思い出していただけたか。あまりにその…雰囲気が違うので、人違いかと思っていたが、先日のあの見事な着地をみて、やはりと思ったのだ」


 キーエンスは声を立てて朗らかに笑った。


「この姿は社交用なのです。友人が恋人に会うためにどうしても晩餐会に来たいと騒ぐので、仕方なく着飾っているのです」


「では、その美しい髪もかつらなのか?」


 ぶ、と吹き出す声が聞こえ、扉から入ろうとしていた執事が肩を震わしていた。

 キーエンスも笑い、特に気を悪くすることもなく、髪の一房を差し出した。


「引いてみますか?」


「崩れてしまうだろう」


 と言いながらも好奇心に負けたのか、エウリムは髪をそっと引いた。


「かつらではないのだな」


「ええ。あの頃は事情があって、色を落としていたのです」


「いつも思うのだが、ご婦人はなんとも器用に髪を巻いたり結ったりする

ものだな。かつらなのかと思っていた」


「お歳を召したご婦人はそうなさる方もいらっしゃいます。けれど、そんなことを聞いてはいけませんよ?女性は虚栄心が強いのですから」


 そうか、と生真面目に頷くエウリムは、執事に促され、立ち話をしていたことに気づいた

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