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双剣の舞姫  作者: 黒猫るぅ
嘆きの日
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     4

 ゆっくりと意識が浮上する。夢の中では気だるくもなく、朗らかに笑い、食事も美味しく感じられた。けれど、この夢が覚めてしまえば。


「…姫?」


 身体は重く、食欲もなく、少し歩けば息苦しくなるこの現実。けれど、愛しいあの方に逢える。


「---アーシュ」

 心配げに見下ろす深い青の瞳を見つめ返す。


 愛しいアシュトン。


「貴方に逢えるなら、目覚めるのも悪くないわ」


 ゆるりと伸ばした華奢な手を受け止め、アシュトンは生真面目に頷く。


「姫が望むなら、いつでも逢いに来よう」


「ありがとうアーシュ。嬉しいわ」


 にっこりと笑いながら軽くアーシュの手をつねる。


「姫!?」


「でも貴方はお兄様のナナイなのだから、いつでも、なんて言ってはいけなくてよ?」


 つねった手を優しく撫で、エレンテレケイアは上目にアーシュを見上げる。


「でも、いつも逢いたいわ」


 そのねだるような可愛いしぐさに、アーシュはそっと唇を重ねる。触れるだけの、軽い口づけだった。


「心はいつも傍にいる、私の姫」


「わたくしもよ、アーシュ」


 再び吐息が重なる。




 

 会食を終えた一同はホールへと戻り談話を始める。

 ナナイはこういった場合、あまり長居しないように、と母に言われているので、キーエンスはそっと退室の礼をとりホールを抜け出し、王族専用の回廊へと向かう。


「これはこれは、エレンテレケイア姫」


 王族の居室へ向かう専用回廊へあと少し、という所で領主の跡継ぎたる若い少年達が数人立っていた。待ち伏せていたのだろう。


「…ごきげんよう。散策ですの?」


 にっこり、とエレンテレケイアの笑みを浮かべ、仕方なく言葉をかける。ここで冷たくあしらっては、エレンテレケイアの名に傷がつく。


「ええ、古き名工の手による由緒正しきキダータ城は、どこを見ても目が覚めるような美しさです」


「まあ、それは嬉しいお言葉。神殿の壁画や中庭の噴水などはご覧になりました?お帰りになる前に、一度見てくださいませね」


 では、と立ち去りかけたキーエンスを阻むかのように、少年の一人が立ちはだかる。


「いかがなさいました?」


「ぜひご案内をお願いしたいのです、姫」


「ええ、ぜひ」


「もう少しご一緒したいのですよ、姫」


 少年達はキーエンスを囲み、中庭へと歩くように促す。

 そこへ、かつり、と小気味よい音をたて踵を合わせる音がする。


「エディ、父上がお呼びだよ」


 姿勢よくすらりと立ち、居並ぶ少年達を気迫で圧倒しながら、アルカイオスは足早に近づいてきた。

 仕方なしに少年達は道をあけ、アルカイオスを通す。


「さあ、行こうか」


 よく通る声で言い、さりげなくキーエンスの腰へ左手を添え、空いている右手で少年達に見えないよう、しっかりとキーエンスの右手を握る。


「皆様ごきげんよう」


 にっこり、と笑い、アルカイオスに導かれ、キーエンスは王族専用の居住区へと避難した。


「まったく、油断できないな」


「アルカイオス様…お放しください」


 つい足早になっていた事に気づき、アルカイオスは立ち止まる。


「嫌だよ、キース。放したくないね」


 先ほどまでは明るく外交的なエレンテレケイアであった少女が、ただ手を握られているだけで赤面して俯く姿が愛おしかった。


「アルカイオス様…」


 消え入りそうな、か細い声で恥じ入る姿がまた可愛らしい。

 アルカイオスはつい手を引き、その華奢な身体を抱き寄せる。


「イオ、と、呼んでごらん」


 腕の中で、少女は首を振る。


「そんな…恐れ多い…」


「私はこれでも我慢強いんだ。でも、そろそろ限界かな」


 露わになった小さく柔らかな耳に唇を寄せる。触れた途端、わずかに震える身体に興をそそられる。


「イオ、と呼ばないと、次は口づけするよ」


 そっと身を離し、真っ赤になって佇むキーエンスに仮面を握らせる。


「続きはまた。惜しいが…戻る」


 軽く手を挙げ、アルカイオスは優雅な身のこなしでホールへと戻っていった。

 キーエンスは火照る頬を軽く手で押さえ、高鳴る動悸を抑えるために大きく息をつく。


「---王子の戯れにも困ったものね」


 仮面を付けた女が、柱の影より歩み出てきた。


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