表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
双剣の舞姫  作者: 黒猫るぅ
将軍の息子、恋をする。
37/264

 月明かりに照らされた庭園は、所々に篝火がたかれ、美しい模様に刈り取られた木々に陰影を与えていた。

 程良い暗がりには近づかず、イオは遠くさざめく大広間から離れようと、慣れ親しんだ道を進む。

 木々の暗がりには石作りの椅子がいくつか置かれている。秘密の逢瀬を楽しむ大人達が利用するためだ。下手に目撃しようものなら、あとあと面倒なことになる。

 時折開かれる舞踏会は、美しく着飾る貴族の娘達が大勢やってくる。中にはエビネ家と強い結びつきを望むために、イオへとあからさまな誘いかけをする娘もいる。

 訓練所の友人と一緒に愉しんだ事もあるが、深入りするほど楽しくもなかった。

 大広間から死角になるよう、正面にあった噴水を回り込む。この薄暗がりの中、わざわざ追いかけて来る気丈な娘もいないだろうと思っていたが、念のためだ。


---まぁ、キーエンスなら、あり得るけれど。


 友人を思いだし、イオは小さく笑う。


「誰!」


 少女の声が響いた。驚いたイオは、噴水の影に佇む小柄な少女に気づいた。

 淡い黄色のドレスを身に纏い、明るい栗色の髪をした、目の大きい少女だった。


「どうかしたの?一人でいるなんて、不用心だよ」


 辺りに彼女以外の気配はない。まだ10歳ほどに見える少女が一人で夜の庭にいるのは、ただごとではない。


「こ…こちらは将軍殿のお屋敷です。無頼な輩など入り込めぬはず」


 きっとイオを睨み上げ、やや甲高い声で少女は言う。


「確かにそうだけど…」


 よからぬ事を考える貴族もいないわけでもない。幼女だからこそ危ないということもあるのに。

 イオは言葉を濁し、肩をすくめた。


「女の子が一人でいてはいけないよ。僕と一緒に大広間へ行こう?」


 気安く差し出したイオの手を、少女はじっと見つめた。


「ああ、ごめん、名乗っていなかったね。僕はイオ=エビネ。怪しい者じゃないよ」


「…将軍のご子息…」


 じ、と大きな瞳でイオを見上げ、少女はイオの手を取った。


「よろしいでしょう。私の付添役をやっていただけるなら、行ってもよいわ」


 つん、と顎をつきだし、少女は立ち上がる。


「お名前をお聞きしてもよろしいですか、姫」


 どのご令嬢も、姫と付けると喜ぶものだと学んでいたので、イオは恭しく一礼して言った。


「あら、知っているのね。そうよ、わたくしはフリア。王位継承権第5位のルナリア国が王女です。付き添える事を喜びなさい」


 ぴしり、とイオの顔に驚きのあまり緊張が走ったことに気づかず、フリアはのんびりと噴水を見渡す。


「侍女のミアがエビネ家の舞踏会は楽しいと言っていたわ。とても見事な舞いを間近で見れるのだもの。王宮とは違うわね。王宮ではホールの高台の小部屋からでないと見てはいけないの。…ちょっと!聞いているの!?」


 ぎゅ、とイオの手の甲をつまみ、フリアはイオを睨み上げた。


「ええと…はい。…いいえ」


「どっちなのよ!」


「ごめん、びっくりして聞いてなかった。あ、…です」


 慌てて言い直し、気分を害していないだろうかと少女を見下ろす。

 少女は大きな目をさらに大きく開いて、吹き出した。


「正直なのね!わたくしの侍女達はみな適当なことを言って誤魔化すのに!」


 東洋風の見事な透かし彫りを施された扇子を開き、口元にあてて笑う。

 朗らかであり、上品な仕草をする少女に、イオは好感を抱く。


「姫が来られる事を、両親はなにも言っていませんでした。お忍びなんですか?」


「あら、かしこまらなくてよくてよ?使い慣れていない言葉は聞き苦しいわ」


 ふん、と小馬鹿にするように笑う。だが、可愛らしい少女の仕草なので、憎めない。


「助かるよ。王族の方と話すのなんて、初めてだからさ」


 照れて笑うイオを見上げ、フリアは少し頬を赤らめた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ