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双剣の舞姫  作者: 黒猫るぅ
カダールの末裔
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「キーエンス!そこにいたのね!」


 ウィーゼの声が聞こえる。けれど、姿は見えない。


「こっちよ、建物の下!レコルダーレの小屋の横に勝手口があるから、降りといで」


 建物の通気口から、見覚えのあるふくよかな手がレコルダーレの小屋の方を示していた。


「はい」


 言われた通りに小屋の横へ行くと、木の扉があった。鍵はかかっておらず、押し開くと下へ降りる階段があった。うす暗いが、見えないほどではない。

 キーエンスは身軽に階段を下りると、石造りの通路が見えてきた。


「まったくもう!金のワインなんて飲める訳ないでしょうが!樽がひとつ

台無しだわよ」


 ばたん、とワイン蔵への扉を閉め、ウィーゼが不機嫌に言っていた。


「おはようございます、ウィーゼ」


「おはよう、キーエンス。よく似合ってるじゃない?それバンキムの子ど

もの時の服よ。カビ臭くないのを選んだけど、気に入った?」


「はい。とても」


 床に置いてあった籠を持ち上げ、ウィーゼはにやりと笑う。


「なんだか嬉しそうだこと。髪が伸びる頃には、アタシの娘時代の服を手直ししてあげるわね。高そうなドレスがいいなら、ティアス様のドレスがあるし。ああ、ティアス様はバンキムの母上よ」


 あなたが寝ていた部屋に住んでいらしたの。と、少し寂しげに言う。


「もう何十年も使われてない部屋だったから、キーエンスが使ってくれると、ティアス様もお喜びになるわ」


 あまり使う事のなかったドリーシュ家の自室を思い出し、キーエンスは微笑む。これからは、お祖母様の部屋を大切に使おう。

 その笑顔を見て、ウィーゼはにやにや笑う。


「笑うと美少女だけれど、服装は男の子。さて、みんなあなたがどっちと思うかしらねぇ。今日は闘技場へ行くんでしょう?一応バンキムの子どもの頃使っていた防具を出したけど、使う?」


 階段を昇りながら言う。


「あまり防具をつけたことがないので、やめておきます」


 と言うと、ウィーゼは不思議そうな顔をした。けれどなにも言わずに、厨房への扉を開けた。

 剣の指南を受ける時、皆防具をつける。そして防具をつけて試合に臨む。防具をつけずに試合をしに行くことはない。なのになぜ、防具を使い慣れていないのか。


 ただの武道ではなかったのね。


 ドレスを身に纏い、王族を狙う不届き者と戦うために訓練を積んだキーエンスは、ルナリアの武術とは違うモノを身につけていた。

 厨房の床に籠をおき、ウィーゼは小さなナイフを差し出した。


「バンキムやトゥーバは酒盛りのし過ぎでまだ寝てるわ。今朝食を出すから、皮むきしてて頂戴」


 ナイフを受け取り、キーエンスはこわごわと籠の中のイモを見下ろす。


 どうやるんだろう…。


「ええ!あんた皮むいたことないの!?人としてどうよ、それ?」


 ばこん、と剥いた皮を入れる残飯入れを置き、キーエンスからナイフをとりあげて綺麗に剥いてみせる。


「ほら、こうやんのよ。一人で煮炊きできるように、アタシが仕込んでやるよ!まずは食事までにそれやっちまいな」


 籠いっぱいのイモを指し、ウィーゼは楽しそうに言う。


「…はい」


 剣の修行より、大変かも…。


 キーエンスはおそるおそる、イモを剥き始めた。




 きゅぅ、とお腹が鳴る頃、ようやくすべてのイモをむき終えることが出来た。


「こっちきて手を洗いな。器用じゃないか、すぐに覚えるよ」


 むき終えたイモの山を見て、ウィーゼは笑う。そして手を洗い終えたキーエンスを食堂へ連れて行ってくれた。


 もりもりと朝食を食べるトゥーバと、二日酔いで顔色の悪いバンキムが席についていた。


「なっさけないヤツじゃぁ、剣神カダールの孫とは思えんの。…うむ、そういえばカダール様もあまり酒は飲めぬのだったか」


「俺は普通だ。あんたが異常なんだよトゥーバ爺。おぅキーエンス、皮むきご苦労。良い勉強になるだろ?」


 怠そうにしながらも、キーエンスへ手を振る。トゥーバも食事の手を止めて軽く手を挙げ挨拶をした。


「レコルダーレに会ったらしいの?変なヤツじゃが、いいヤツじゃ。まぁ、時々爆音が響いて騒々しいがなぁ」


「レコ爺の作るモノはおもしろいぞ?あんまり実用向きじゃないがな」


 ウィーゼの運んできたスープを飲み、バンキムは言う。


 足が金になっていたことを話すと、バンキムとトゥーバは笑い声をあげた。


「トゥッテは結構利用しているぞ?仕掛けワナにはいいらしい」


「ここに忍び込もうなんて思うヤツ、いるのか?」


 呆れながら言うバンキムに、トゥーバは肩をすくめてみせた。


「剣神カダールの宝物をひと目見ようとするヤツらがなぁ。だが、トゥッテのワナでことごとく失敗しておるわ。最近では諦めたのか、ワナにかかりに来る物好きはおらん」


「トゥッテてのは、体術好きのじいさんだ。昨日から闘技場に行ってる。大会の審判長らしいからな、今夜には会えるだろう」


「訓練所の責任者でもあるぞ。年少の部の決戦者名をみて驚いておるだろうなぁ」


 きしし、とトゥーバは笑う。


「そうだ、キィ。闘技場に行かんとな。まぁ、あれだ…」


 キーエンスの姿をまじまじを見る。


「楽しめ」


 にやり、となにか思い当たるのか、バンキムは企む笑みを浮かべた。


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