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双剣の舞姫  作者: 黒猫るぅ
舞姫、楽師に口づけを落とす。
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12

 巨体の男は頷き、両手で顔を覆う。


「ようやく即位にこぎ着けたというのに…若の身になにかあれば…」


「対魔の護符には限りがある。私の私兵も動いているが、やはり魔道師どもに邪魔をされる。忌々しい事だ」


 青年貴族は密室の隅々に置かれている護符を一瞥する。ここはヤツらも嗅ぎつけられない。現王の擁護派にはほとんど魔道師がいないからだ。

 敵対している王の従姉妹が、魔道師の家系だからだった。


「------なあ」


 突然少年の声が降る。巨体の男は腰から大振りの剣を抜き、青年貴族もまた両刃の剣に手をかける。


「王様の居場所教えるからよ、さっさと助けに行ってくれよ」


 とん、と身軽に卓へ飛び込む小柄な少年が言った。その美しい髪に、侍従長の男は息を呑む。

 見たこともない、薄い金の髪。

 ひらりと身軽に飛び、振り下ろされた大剣を避ける。


「正気か、おっさん。こんな狭い部屋ででかい剣振り回すなよ、あぶねぇ」


 ふ、と唇をすぼめて軽く息を吐く。細い煌めきが巨体の男に突き刺さる。


「話聞いてたか?あんたらの大事な王様が、近くまで来てるらしいぜ。早く迎えに行けよ。アブねえみてぇだぞ」


「…お前、何者だ」


 青年貴族は秀麗な顔を不審気にゆがめ、腰の剣に手を当てたまま誰何する。


「おれ?フリントってんだ。ヴァッススだよ」


 なに、と青年貴族は怪訝に呟く。


「なぜ舞姫の護衛が王の居場所を知るのだ」


「ああ?細けぇ事にうるせえヤツらだなぁ。早く助けに行けばいいのによ。…面倒くせーから、オレ等で迎えにいくか、アグリル」


 ばん、と音をたて、フリントの声に応えるようにして長身の男がふたり、入室してきた。


 ち、と青年貴族は舌打ちする。護符が破られた、魔道師達に聞かれてしまう。


「見れば近衛の者もいる様子。彼らに動いて貰った方が、早いだろう」


 ぱきり、と音をたてイズニークは生けてあった花を手折る。それをばらまき、風に乗せた。


「これに着いていけば王の元まで案内する。さっさと行け」


「信じると思うのか」


 赤銅色の瞳を煌めかせ、眼布の男を睨む。


「信じずに後悔するのは愚かだな」


「行こうギローシュ!私兵を集めるよ!」


「が・が・が・・・」


 巨体の男が呻く。


「おおすげー、熊でも静止のツボでは動けなくなるのに、コイツちょっと動けてるぜー」


 フリントは笑い、でも身体に悪いからな、と添えて針を抜いてやる。途端、巨体の男は叫んだ。


「近衛隊も動かす!行くぞギローシュ!」


「隊長!」


 バタバタと駆け寄る数人のの近衛隊に、イズニークは眠らすことなく道を空けた。


「東の塔で動きが!」


「屋上で方陣を組んでおります!」


 なに、と隊長と呼ばれた巨体の男が気色ばむ。


「王の許しもなく城内で魔道を執り行うとは・・・!ただちに止めさせよ」


「すでに動いておりますが、魔道で封鎖されており、とても近づけません」


「どうせろくでもないことを企んでいるのだろう。東の門より出る。銅鑼を鳴らせ!」


 近衛隊達は短く礼をし、足早に駆け出す。それを追うように青年貴族らが駆け出す。


「やれやれ、大騒ぎだな」


 フリントの頭を小突き、アグリルはため息をつく。


「急に動くな、危ないだろう」


「急いでたんだろ?」


 目立つ顔立ちを隠すためにはめていたゴーグルを額へ押し上げ、アグリルを上目に見る。そして、なおも苛立つ気配を纏う楽師へと視線を移した。


「なあ、あんた散々暴れただろ?ばれる前に部屋へ行こうぜ。噂の舞姫のツレが、殺気振りまいて近づく奴らみんな眠らせるなんて知られたら、面倒だ」


 む、とフリントの言葉にイズニークは不機嫌に顔をしかめたが、しぶしぶ踵を返し、客室へと向かった。


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