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二人が人混みに紛れ門をくぐると、大勢の人間が武器を手に集まっていた。キーエンスほどの子どもから、バンキムぐらいの大人まで、様々な年代の人間があちらこちらへと移動している。
「馬はあっちだ!徒歩で来るように書いてあっただろうに!15歳以下はこっちが受付だ! 」
受付と公用語で書かれた腕章をした男が、叫んだ。
「ふむ」
にやり、とバンキムは辺りを見回してからキーエンスへ笑いかける。
「行って来い、キィ。おもしろそうだ」
「受付をすればよいのですか?」
バンキムは頷き、キーエンスの乗っていた馬も連れて馬小屋の方へと行ってしまった。 仕方なく、キーエンスは腕章の男が手招く方へと行く。
「いくつだ?訓練生ではなさそうだな」
小柄なキーエンスに、訝しげな顔で、腕章の男が問うてくる。
「12歳です」
キーエンスの細い腰に吊された二本の細剣を見下ろし、男は小馬鹿にしたように笑う。
「ケガするなよ。無理だと思ったらさっさと『参りました』って言え」
腕章の男の向こうでは、ヒモで区切られた場所で少年達が剣を交えているのが見える。 どうやら、なにかの試合らしい。
「わかりました」
「最後尾につけ。来た順に対戦するからな」
頷き、向かった先には15歳までの子ども達が並んでいた。最後尾にいた身体の大きい少年は、キーエンスの姿を見て笑う。
「やったな。チビだ」
「みろよ、細剣だぜ?」
「折っちまえよ」
「カワイソウだろ?訓練生じゃねーんだ、金払って武器用意しなきゃなんねえんだろうし」
そうだな、と並んでいる少年達が笑い声をあげた。
見ると確かに、彼らの持つ剣は同じ文様が彫られている。訓練生という者達なのだろう。
彼らの持つ武器は型がどれも似ている。支給されたものなのだろう。
「知っての通りルールは簡単、無制限だ。『参りました』と相手に言わせたら勝ちだ!一回戦で負けた訓練生は、ゴルダの丘まで三往復させるからな!」
監督官らしき青年が、大声を張り上げる。
「君は訓練生ではないな。肌の色からして、他の国の者だろう?旅の途中で寄ったのかな?」
どうやらキーエンス以外は顔見知りらしい。新顔のキーエンスに監督官の青年が声をかけてくれる。
「父が、連れてきてくれました」
たぶん、ここが目的地であるのだと思うのだが。
声を聞いた監督官は、怪訝な顔をする。
「君はもしかして---」
キン!と金属のぶつかり合う甲高い音がこだまする。監督官は仕方なく試合へと顔を戻した。
「参りました!」
地面へ座り込む少年と、剣を鞘に収める赤毛の少年がいた。赤毛の少年は得意げに笑い、座り込む少年を立つのを手伝ってから、赤いリボンを手にした監督官のもとへ行き、リボンを受け取って腕に巻いた。負けた少年は照れ笑いをしながらヒモの外へ行き、観客に紛れる。
「やっぱり強ぇなぁ」
「将軍の息子だからな」
ひそひそと少年達が囁く。
「次!」
立ち上がる少年達を見やり、キーエンスはその防具に目を向ける。
革の防具か。短剣を打ち込んでも、深く貫いてしまいそうだ。使わないほうがいいかもしれない。
少年達の試合は短時間で決着がつく。技量も限られ、体力もないからだ。
流れるように早く、キーエンスの番がきた。
「次!」
「キィ、マントを」
ヒモで区切られた試合場に入ると、横からバンキムが手を差し出してきた。
キーエンスは頷きマントを脱いで渡す。
「君!防具がないじゃないか」
監督官が、ほっそりとした身体が、ただ簡素な服をきているだけなのに驚く。
「いけませんか?」
「ケガをしたらどうするんです!」
保護者であるとみたのだろう、バンキムへ言う。
「ならば、ケガをしないように、勝て」
一切その身に太刀を受けることなく、相手に負けを認めさせろ。
キーエンスは頷き、礼儀正しく頭を下げてから、細剣を抜く。
防具のない華奢な相手に、対戦する少年は笑う。
「一度血を見たいと思っていたんだ」
監督官に聞こえぬよう、そう呟く。
ふわり、とキーエンスの身体を、闘気が包んだ。
「始め!」




