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大臣達に追いつかれぬよう、時折後ろを見やり、アルカイオスは礼拝堂の地下へと降りていった。
並ぶ石作りの棺には、代々の王の御名やその妻である系譜が書かれていた。
一番奥、台座の上に横たわり、胸に花束を抱く少女の姿があった。
薄い金の髪が柔らかく波打ち、ティアラが飾られている。
まとうドレスは花嫁のような、純白の色。
薄く化粧をしているのか、頬は薔薇色で、唇はみずみずしい花びらのように濡れている。
けれど、その瞳は閉じられたまま。
「昨夜…息をひきとりました」
アルカイオスは静かに呟いた。
ヤマ王は呆然と立ちつくし、美しいその寝顔を見下ろす。
「目を開けるのだ、姫」
無骨な手を伸ばし、頬に触れる。ぬくもりの無いその肌は、死者のもの。
崩れるように膝をつき、ヤマ王は黙祷した。
その震える肩から目をそらし、アルカイオスは唇をかみしめる。
卑怯な事をしているのはわかっている。だが、キーエンスを渡したくはなかった。
「王子!」
咎めるような大臣の声が霊廟に響く。
「やりおったな」
大臣達と共に追ってきたハリストーエは小さく呟き、わずかに笑む。
す、とヤマ王は立ち上がり、言い訳しようと焦る大臣達など見向きむせず、キダータ王へ頭を下げる。
「生涯で一度の出会いであった。安らかに眠ることを願う」
そう言い、後も見ずに立ち去った。
「すまなかった、ヤマ王」
ハリストーエの言葉が届いたが、ヤマ王は歩をゆるめず、その足でキダータを発った。
「言うことはないか?アルカイオス」
静かに問うハリストーエを、アルカイオスは睨み上げて応える。
「恋人を守るためだ。どんな手でも使う!」
アルカイオスの視線など気にもせずに、ハリストーエは肩をすくめる。
「さて、そなたのいう恋人は、戻ってくるかのう?」
「どういう意味です」
表情を変えぬまま、ハリストーエは傍らの大臣に顔を向ける。
「ヤマ国との国交は断絶されてしまったな。ヤマに対抗しうる力のある国はどこか」
「武力のヤマ、経済力のキダータ。そして秘術のルナリアと申します。神秘の国ルナリアでございましょう」
ふむ、と頷き、ハリストーエはアルカイオスに背を向けた。
「ルナリアの姫を娶るしかあるまい。求婚の報せを作れ。キダータ第一王子が、ルナリアの姫を望んでいるとな」
「父上!?」
潮がひくように、立ち去る王に従い、大臣達が霊廟より出ていく。
---別の者と婚姻を結ばなければならぬ事もある。
バンキムの呟きが蘇る。
「嫌だ…」
がくり、と膝をつく。アルカイオスは霊廟にひとり、残された。




