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双剣の舞姫  作者: 黒猫るぅ
嘆きの日
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     20

 夕刻、登城しないキーエンスを探しにドリーシュ家まで行った衛兵からは、驚くべき事実が伝えられた。


 ドリーシュ家は無人である、と。


 綺麗に掛け布をかぶせられた家具と、かたづけられた室内を、窓より覗いて戻ってきた。 ドリーシュ家令嬢がいる様子がなかった、と。

 当主夫人であるシーリーンの許しを得てから屋敷内に入り、無人であることを確認した。

 それまでいたはずの数少ない家人すら、いなくなっていたのだ。

 シーリーンは報告を聞き、倒れた。

 しかしすでに返礼の宴を用意し始めていたので、花嫁のいないまま行うしかなかった。





  居並ぶ諸侯はみなよそよそしく、目を合わせない。

 大臣達もどこか気もそぞろで、はやく宴が終わればいいと思っているのは目に見えた。


 だから急すぎると言ったのだ。


 求婚が受け入れられたのはこの上ない喜びだが、それでも数日滞在して、姫の気持ちを解きほぐしたかった。


 間違いである何かをみつけ、嫁いでもいいと思わせるようにしたかった。それから返礼の宴を開くべきなのに。


 ヤマ王は苛立たしげに葡萄酒の入った杯をあおり、王を見やる。

 傍らに王妃が控えているが、それ以外に王族の姿がない。


「我が花嫁はどちらかな?…よもや婚姻を拒んでいるのではあるまいな。で、あれば、我は無理強いせぬが」


「姫は具合がよろしくないのです」


 慌てたように、大臣の一人が言う。


「そう…伏せっておられるそうです。けして拒んでなどおりませぬ」


 頷き、別の大臣が付け足す。


「では見舞いに参ろう」


 子を身ごもり、流産した噂は聞いていた。あながち大臣達の言うことも嘘ではないのだろうが、直接会って確かめたい。


 気分を害したのでなければよいが。


 立ち上がり、ヤマ王は宴の席を離れる。


「お待ち下さい!」


「お待ちを!ヤマ王!」


 大臣達が追ってくるのを無視して、ヤマ王は部屋を出る。


「王族の居室はどちらだ」


 料理を運んできた侍女に問うと、一瞬奥を見やり、応えられぬと首を振った。


「充分だ」


 侍女の見た方向へと歩を進める。頑健な衛兵達が行く手を阻もうかと逡巡していたが、ヤマ王の気迫に押されて動けなかった。


「ヤマ王、こちらへ」


 柱の影より声が掛けられた。


「アルカイオス王子?」


 アルカイオスはヤマ王へ軽く頷き、庭へと導いた。


「こちらへ。エレンテレケイアに会わせましょう」


「なにを企んでおる?」


「なにも。ただ事実を、王にお見せしたいのですよ」


 そう言い捨て、アルカイオスは振り向きもせずにかけだした。ヤマ王も後に続く。


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