表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
双剣の舞姫  作者: 黒猫るぅ
嘆きの日
2/264

     2

 

 ほぅ、と熱を孕んだ息をつき、寝台に横たわる幼い王女は、傍らに立つ少女を見上げた。


「3ヶ月に一度の御領主様達との会食…楽しみにしていたのだけれど、仕方ないわ」


「春とはいえ、昨夜は冷え込みました。エレンテレケイア様、ご無理はなさらないでくださいまし」


 横たわる少女は、苦笑して傍らの少女を軽く睨む。


「生まれた時から一緒だというのに…いつまでも他人行儀ね、キーエンス」


 白く華奢な手を伸ばし、キーエンスの顔を覆う仮面を取ろうとする。


「いけません。ナナイは仮面を付けるのが決まりなのです」


「構わないじゃない、他に誰もいないもの」


「エディ!」


 取り上げられた仮面を追うように手を伸ばすが、エレンテレケイアに乱暴なこともできず、キーエンスは諦めて手を降ろす。

 くすくすと、鈴を転がすかのような明るい笑い声をたて、エレンテレケイアは樹脂を固めた作られた仮面をもてあそぶ。


「そうそう、他人行儀な呼び方などしないでちょうだい、キース?いつもエディと呼んで欲しいわ。あなたはわたくしの妹のようなものなのだから」


 困ったように見下ろす水色の瞳を見返し、エレンテレケイアは微笑む。鏡に映したかのようなその顔。寝台に伏せるエレンテレケイアに似せたためか、化粧は控えめにしてある。


「髪の色で随分悩んでいたようだけど、そっくりにみえるわ。どうやったの?」


 手を伸ばし、キーエンスの淡い金の髪を指に絡める。髪はわずかにぱさつき、滑りが悪い。


「まさか、薬で色を落としたの?」


 キーエンスは応えず、エレンテレケイアの手から仮面を抜き取った。


「だから髪が痛んでしまったのね!もう!とても艶のある金の髪だったのに…見た目を淡い色にしたいなら、今まで通り粉を振りかければいいのに」


「粉は触れれば落ちてしまいます」


 仮面をつけ、キーエンスはしまった、と滑る口を閉じたが、遅い。


「あら。髪に触れるのを許すような相手がいるの?キース」


 うふふふ、と羽毛の入った寝具を抱き寄せ、エレンテレケイアは笑い続ける。

 なにか誤魔化さなくては、と思うものの、うまく口がまわらない。


「お兄様ったら、手が早いのねぇ」


 一瞬でキーエンスの耳が赤く染まるのを見て、エレンテレケイアは寝具に顔を埋めて笑う。


「仮面を付けていてもわかるわよキース、あなたったら真っ赤よ」


 キーエンスが慌てて両手で両耳を隠すが、エレンテレケイアは追い打ちをかける。


「首も」


「し・失礼します」


 さすがに隠しきれないので、キーエンスは急いで退室の礼をして、ドアへと駆け寄る。

 ココン、と軽くノックの音が響いた。


「は、はい」


 動揺を隠しながらキーエンスがドアを開くと、同じような仮面を付けた少年が立っている。


「兄上…」


「時間だキース」


「はい」


 するり、とドアの影から腕が伸び、キーエンスの仮面を取る。


「顔が赤いね。エディの風邪がうつったかな」


 仮面を取ったのは、兄によく似た背丈の少年だった。エレンテレケイアと同じ淡い金の髪に、深い青の瞳をしていた。


「アーシュ、あとはいい。エディについてやってくれ」


「畏まりました」


 アーシュと呼ばれた少年---アシュトンは、一礼してエレンテレケイアの部屋へと入って行く。それを見送り、仮面を手にした少年は、キーエンスの額に手を当てる。


「うん、大丈夫そうだね」


「アルカイオス様…」


 ますます顔を赤らめ、少年から離れようとするキーエンスの手をそっと掴み引き寄せる。


「イオ、と呼ぶように。…何度も言っただろう?」


 耳元にそっと囁く。

 恥じらい、俯くキーエンスを愛おしげに見下ろし、アルカイオスは身を離す。


「今はこれまで。---では行こうか、妹姫」


 アルカイオスの言葉に応えるかのように、キーエンスから恥じらう表情が消え、輝く水色の瞳で見返してきた。

 にっこり、とエレンテレケイアそっくりに笑い、アルカイオスの差し出した腕に軽く手を添える。


「はい、お兄様」


 王族の身代わりとして公に出る---それがナナイと呼ばれる者達の勤めだった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ