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双剣の舞姫  作者: 黒猫るぅ
海賊、嫁を攫う。
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「…無体なことは出来ぬ。嫌われてしまうではないか」


 口をとがらせ、武王らしくもなく気弱な事を言う。


 イズニークは呆れて肩をすくめた。


 遊びの女には、酷いくらい強引に事を進め、それでも相手が許してしまうほどの魅力を振りまいてケムに巻くくせに。


「たったひとりの本気の女は、手強いか」


「そなたもであろう」


 応える代わりに、イズニークは弦をはじく。もう心は落ち着いていた。気持ちを受け止め、そして親友であるヤマにも打ち明けた。


 曲名は『運命の女』。


 ヤマは目を閉じ、曲に聴き入る。


------音が変わったな。


 これまでも美しい音色ではあった。だが、さらに心に響く情感が深まった。


------我が姫にも、困ったものだ。








 船上生活は一週間を越え、ようやく出発の目処がたつ頃には、フリントの相棒としてキーエンスは砲台の整備をこなすようになっていた。だが、時折港町へ降りる船員達のようには、船から出る事はゆるされなかった。


「すまない。出かけるなら、買ってきて欲しいものがあるんだ」


 いそいそと出かける用意をしていたフリントに、キーエンスは小銭の入った袋を渡す。


「いいけどよ、たまにはお前も出かけろよ。昼間は甲板にも出ねえで、雑用ばっかして飽きねーか?」


「ありがとう。…私はいいんだ」


 控えめに笑うキーエンスへ、それ以上言い募ることはせず、促すようにフリントは顎を突き出す。


「その…酔い止めを。ヤマ国への間、保つくらいの量をお願いしたい」


 途端、派手に吹き出し爆笑するフリントは、腹を抱えながら部屋を出る。


 困ったように赤らむ顔が可笑しくて、フリントはしばらく笑いを堪えることができなかった。


「おう、出かけんのかフリント。たまには娼館にでも行けよ」


「うるせえ、留守番組は黙ってろ」


 フリントが過去のためにそういった事を嫌悪しているのを知っていてからかうのだ。だがフリントも慣れているので、軽くあしらい船を下りる。





 目当ての雑貨屋を心ゆくまで堪能し、めずらしい磨き粉を一袋買ってから薬屋へと向かう。酔い止めの丸薬を手に取ると、後から来た体格のいい男性客が傍に立つ。


「なあ、あんたあの武器船のモンだろ?」


 男は垂れ目を細め、小柄なフリントを見下ろしつつ声をかけてきた。


 フリントはすばやく視界の隅を確認する。視線を動かすようなことはしない。男の腰に湾曲した剣が佩かれているのを確認し、表情を消した。


------海賊か。


 即座に逃げようと思った。酔い止めは次の外出日に買えばいい。


「おっと。酔い止めを買うんだろう?船に慣れてるあんたらが飲むんじゃねえ。多分、キーエンスだな?あいつ、すげえ酔うからなぁ」


 丸薬の横に置かれている液体を手に取る。


「あいつの船酔いはハンパじゃねえ。こっちの方がいいぞ」


「…知り合いなのか?」


 ん、と説明書きを読みながら、垂れ目の男は頷いた。


「あいつが旅してた時に会ったんだ。元気か?」


 近づいてきた店主に多めの金を渡し、液薬を持ったまま男はさっさと店を出る。


「まあ…」


 言葉を濁すフリントを一瞥し、男は片眉を跳ねた。


「そうか…。様子を見てえとこだが、俺のナリじゃ武器船にゃ入れねえだろ?あいつに伝えてくれよ、キトリのことで話があるって」


 キトリってのは俺のボスの女だよ。と言い、男は酔い止めをフリントに渡した。


「…待てよ。聞いてくっから、そこにいろよ」


 ヤマ国の船へ向かう小柄な少年を見送り、フィデルは口笛を吹いた。


「チョロいな」


 近づく仲間に合図を送り、言葉は交わさずに命令を下した。

 やがて戻ったフリントに導かれ、フィデルはヤマ国の船へと乗り込んだ。




 ノックされ、キーエンスは生乾きの髪を素早くまとめた。フリントが外出する日には部屋で沐浴をするようにしていた。幸い終わった所なので、不都合はない。


「はい」


 キーエンスが沐浴をしていることを知っていたフリントは、顔だけのぞかせる。


「おう、もういいか?」


「おかえり。終わったから、大丈夫。早かったな」


 うん、と言って背後を振り返るフリントは、困ったようにキーエンスへ顔を戻した。


「お前に客。でも…」


「よお」


 困惑するフリントの背後から、背の高い男が顔を出した。


 見覚えのある垂れ目に、キーエンスは驚く。


「フィデル?」



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