表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
双剣の舞姫  作者: 黒猫るぅ
海賊、嫁を攫う。
170/264

 小さな明かり取りのある小部屋には、足の踏み場もないほど木片や金属の欠片、ネジなどが散乱していた。寝台には無造作に畳まれた服が積んであり、明かり取りの辺りに毛布の置かれたハンモックが揺れている。


「俺の作業場。寝台みたいにふわふわしたのってだいっ嫌いなんだ。お前使っていいぞ」


 寝台の上を片付けて、キーエンスの荷物を放る。


「優しい先輩でよかったなぁ~?感謝しろ」


 言葉遣いや態度はともかく、小綺麗な顔をしたフリントが笑うと、華やかだった。


「ありがとうございます。ええと…先輩」


「いいってことよ」


 ふん、と誇らしげに胸を張る。そして外套を脱いだキーエンスをじっと見下ろした。

 誰もが目を見張るほどの美しい金の髪。煤で汚していてもフードをとれば、その顔や姿の美しさは隠しきれない。華奢な身体付きも、侍従用の服でもわかってしまう。


「お前…」


 フリントは口ごもり、深い色を点した瞳でキーエンスを見つめる。


「俺もお前みたいにチビだったから、いろいろあったよ」


 そう言うと、再び笑みを浮かべる。


「誰かにヤなことされそうになったら、すぐ言えよ?俺様がぶっ飛ばしてやるからよ!」


 なにやら勘違いしたまま結論を出したフリントは、仕事を手伝えと言って再びキーエンスを連れ出した。


 船内をあらかた案内すると、フリントは砲台の整備をし始めた。もちろんキーエンスも手伝わされる。旅のために疲れていたが、初めて見る砲台は珍しく、時間があっという間に過ぎてしまった。


『フリント!メシだぞ』


 タワシで砲台の煤取りをしていた時、壁に生える金色の筒よりアグリルの声が響く。


「もうそんな時間か。行くぞキーエンス。あいつ腹減ると怒りっぽくなるんだ」


 途中の作業はそのままでいい、と言い、フリントは身軽に砲台の小部屋から出る。後につくキーエンスは、さすがに疲れが足にきたようで、動きが遅い。


「お前、なかなかスジがいいぞ。細かい所も丁寧にやるもんな。さすが俺の後輩」


 汲み置かれた水桶から水を汲み、顔と手を洗うと、フリントの小綺麗な顔が現れた。それなりの恰好で大人しくしていれば、貴族の子爵と言っても通るだろう。キーエンスも顔と手を洗って素顔を晒すが、自分で見慣れているせいか、フリントは別段驚かない。


 二人で食堂に行くと、知っているヤマやイズニークはともかく、アグリルも表情を動かさなかった。


 温かなスープを口にしたとたん、キーエンスに睡魔が襲いかかる。ぐらりと傾いた身体を、わかっていたかのようにイズニークが支えた。


「張り切りすぎだな、フリント。もっと気を付けてやれよ」


「ん~、わかった。コイツ真面目だから嬉しくて、ついこき使っちまった」


 なにやら不機嫌な顔のまま、イズニークは華奢な身体を抱き上げる。


「ヤマ」


 短く呼ぶのみで、ヤマは意を汲み、小柄な身体をそっと受け取る。


「食べててくれ」


 そう言い残し、食堂を出ていった。


 華奢な身体を、こわれ物を扱うかのようにゆっくり寝台へのせると、ヤマは陶磁器のようになめらかな頬にかかる髪を指先で払う。そのまま指の背で頬を撫で、火傷でもしたかのように素早く手を引いた。


 明かりとりより零れる月の光に照らされ、金の髪が柔らかに輝く。煤や旅の埃で汚れていても、宝石のように美しく眩しく見えた。


 許されるなら、極上の絹でくるみ、髪も手も下女達に磨かせ、美しく着飾りなに不自由なく過ごさせてやりたい。季節の花が咲き誇る庭に暖かく風通しのよい宮殿を建て、閉じこめてしまいたい。自分以外の目には触れぬように、他の誰にも触らせぬように、奥へとしまいこんでしまいたい。


------できないがゆえに、見てしまう夢…か。


 そんなことをすれば、彼女を物のように扱い、執着するかの国の王子と同じことになってしまう。


 白く細く柔らかな首筋に付けられた痣を思い出し、眉を寄せる。


------若さと、愚かさがあるからこそ、できるのだろうな。


 出来ぬほどの理性と精神力を鍛え上げてしまった。


 それでもほんの少しだけ、自分を甘やかすことにする。ゆっくりと寝台

へ身を寄せ、音もなく少女の額に唇を当てる。だがそれ以上は許さず、素早く部屋を出ていった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ