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双剣の舞姫  作者: 黒猫るぅ
嘆きの日
17/264

     17

 ひそひそと囁きながら、侍従達は王の居室より離れていく。人払いをされたのだろう。

 ばたん、と王の居室を閉じる扉から、大きな物音が響いた。扉より離れたところに立つ衛兵達は絶え間なく続く物音や怒鳴り声に、うんざりと顔を見合わせた。


「それではあんまりです!エディがどんなに傷つくか。ただでさえ子どもが流れてしまったのに…」


 細工の施された円卓を叩き立ち上がったアルカイオスは、拳を握りしめて父王を見た。

 王は目の前で憤慨する息子をただ一瞥し、軽く首を振る。


「これほどの好条件を差し出してくるとはな。大臣達も否とは応えまい。…不憫なことよ」


 蒸留酒の入ったクリスタルの杯をくるり、と回す。燭台の光が乱反射し、一瞬煌めく。


「ヤマ王は、実際にはエディに会っていないのですよ?それでもいいと?」


 本当はキーエンスを見初めたのだ。それを認めたくはないが、事実なのだから仕方がない。複雑な気持ちのまま、アルカイオスはそれでも妹のために言う。


「ナナイの存在は秘められたもの。ゆえに見合いだけはナナイを使わぬようにしていたのだが、まさかひと目でこれほど気に入られるとはな…前例がない。シーリーンは随分と喜んでいたが」


 す、と控えていた長身の男が、王のグラスに蒸留酒を注いだ。王によく似た姿形。そして顔にはナナイである仮面をつけている。

 王のナナイ、ハリストーエである。


「ナナイが国の役に立つことができたので、嬉しいのでしょう。シーリーンはそういう女だ」


 笑みを浮かべて、ハリストーエは言う。声音を使わずとも、王と同じ声で話す。ずっとナナイでいると、いつしか自分の声を忘れてしまったのだ。


「忠義なことだな、お前の妹は」


 王の言葉に、ハリストーエは肩をすくめて応える。そのまま控えようと下がりかけたハリストーエは、素早く顔を上げる。


「何者かが近づいて参りました…この気配は義弟のようです」


 扉の向こうで衛兵と交わす声がする。


「よい、入らせろ」


 扉の向こうに聞こえるよう、王は声をあげる。

 闘気を隠すこともなく、みなぎらせながら現れたのは、バンキムだった。


「久しいな、剣豪バンキム」


「夜分に失礼、キダータの王」


 剣豪の称号を戴いた者は、忠誠を誓う者以外に膝を折ることはない。

 バンキムはただ軽く胸に手を当て、略式の礼をする。


「付き合わぬか?」


 グラスを掲げるが、バンキムはただ笑い、席に着こうとはせずにちらりとアルカイオスを一瞥する。


「すぐに下がる。侘びにきたのだ。俺の子ども達が王族の子息達にしでかしたことを知ったのでな」


 ぴたり、といつの間にか握られた短剣を自らの右目に当てる。


「バンキム!」


 ハリストーエの静止の声が響く中、ゆっくりと短剣が降ろされた。


「これはエレンテレケイア姫の名誉を汚した侘びだ」


 吹き出す鮮血に臆することもなく、バンキムは左目に短剣を当てた。


「さて、こちらはアルカイオス王子を惑わした侘びにするが?」


「違う!キースは私を惑わしたりしていない!私が彼女に迫ったんだ!」


 アルカイオスは慌ててバンキムの腕に飛びつく。


「ほう。戯れならば他の娘を当たれ、王子よ。あれもまたやんごとなき血を引く娘。軽んじられるのは我慢ならぬ」


 ざわり、と吹き出す殺気に、アルカイオスは全身総毛立つのを感じた。


「本気で惹かれている!私は一刻も早く婚約したいと願っている…だが、まだようやく恋人となってくれたばかりなのだ」


 必死に言葉を紡ぐアルカイオスを見つめ、バンキムは短剣を降ろした。


「たとえ婚約が許されたとしても、あれ以上手を出すな。エレンテレケイア姫のように好き合う者がいても、別の相手と婚姻を結ばねばならぬ事もある」


「盗み聞きか」


 ハリストーエが鋭く言うが、バンキムは鼻で笑い、短剣を袖口にしまう。


「おぬしとは違う。考えればわかることだ」


「なに!」


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