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「フリント。やはりお前達が来ているか」
ヤマは柔らかく笑い、フリントと呼ばれた少年の頭をかき回すように撫でる。
------エディによく似た色だ。
その瞳も、髪も。
フリントは頭に置かれた大きな手をイヤそうに払いながら、水色の瞳をキーエンスへ向ける。
「もーガキじゃねぇんだから、やめてくれよ。…だれソイツ」
「我の侍従だ。…キーエンス、我が国の護衛隊の1人だ。荷と共に各地を
回っている」
「へぇ、侍従ねぇ」
じろじろとキーエンスを見やり、そのおぼつかない手綱さばきを小馬鹿にしたように笑う。
「オマエ、いくつだよ」
「…17…ですが?」
「い・やった!俺よりチビでガキでなまっちろい奴が来た!」
ひゃほーい、とその場で飛び跳ねて喜ぶ。
「…よろしく?」
「おう!先輩って呼べよ、キーエンス!」
ずごん!と爆音を立てて、船より渡り板が降ろされた。板の向こうには長身の男が佇んでいる。黒髪黒瞳の男は、鋭い眼光をフリントへと向けた。
フリントは凍り付くように動きを止め、別人のようにきびきびとヤマとイズニークの馬の手綱を取る。
「どうぞ、お進みください」
強張った笑顔を浮かべながら、丁寧に言う。ヤマは笑いを浮かべたまま馬を降り、板の向こうで仁王立ちしている男の元へと向かった。イズニークは馬から降りると、キーエンスを振り返った。
「フードを。君の髪は目立つ。…今更かな」
これだけ目立った後に隠しても、あまり意味はないかもしれない。
「あ、すみません」
慌ててフードを被り直し、おぼつかない手で馬の手綱を引きながら後を追おうとするが、海が怖いのか、板が不安定にたわむのが嫌なのか、馬の足取りは重い。
「仕方ねえなぁ、先輩が手本を見せてやるよ!」
ひょいとキーエンスの手から手綱を取り上げ、フリントは三頭もの馬を連れて板を渡りきる。途中、板がみしみしと不吉な音をたてたが、無事に船へたどり着いたフリントを、仁王立ちして待っていた男が小突く。
「板が割れるだろう!落ちたらどうする」
「なんだよ心配してくれたのかよ、アグリル」」
ふざけて抱きつこうとしたフリントを、男は軽く足蹴にした。
「馬がもったいない!」
笑って見ていたヤマはこわごわと板を渡ってきたキーエンスをみとめ、手招く。
「紹介しよう。フリントと同じ護衛隊の1人、アグリルだ」
長身で細身のアグリルは切れ長の目でキーエンスを見下ろすと、小さく口笛を吹く。
「細剣使いの侍従たぁ、ヤマにはお似合いだな。よろしく」
外套に隠された細剣を見破り、アグリルは目を細める。
「キーエンスと申します」
丁寧に礼をするキーエンスとヤマを見比べ、アグリルは意味深に笑う。ヤマは無視して船室へと向かった。
「キース、銀容芯茶」
慣れた様子で船室の布張り椅子に腰掛けたヤマは、外套を放る。
「はい」
軽く頷きアグリルの示す茶器を使い、人数分の茶を煎れると、フリントが感嘆の声をあげる。
「うめー。さすが俺の後輩!」
「荷は?」
お代わりを催促するフリントを笑って見ながら、ヤマはアグリルに問う。
「重騎が200、槍が200、刀剣が1000。あと半月で捌こうかと」
「悪いな」
「急げば来週には目処がつくだろう。…待つ間、宿をとるか?」
ちらりとキーエンスを見て、アグリルは気をきかせる。
「いや。船でよい」
訳ありなのだと悟り、アグリルは楽しげに笑う。
「じゃ、ここはヤマとイズクのにーさんが使うと良い。キーエンスは」
「まかせろ!俺が面倒見るぜっ」
言うなりフリントはキーエンスの荷と手を掴んで引く。
「あー」
のんびりとアグリルがヤマの顔色を窺う隙に、船室を出ていってしまった。
「…いーのか?」
ヤマはしばし考え、頷いた。
「あいつはまだ子どもだからな。大丈夫だろう、気づかんよ」
「まぁなぁ」
子ども扱いしている親代わりのヤマはともかく、そうでもなさそうなもう1人の男を見ないようにしながら、アグリルは誤魔化すように頭を掻いた。




