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双剣の舞姫  作者: 黒猫るぅ
嘆きの日
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     14

「私の赤ちゃんが…死んでしまった」


 両手で顔を覆い、寝台の中で身を縮める。

 アシュトンがいる間、我慢していたのだろう。がくがくと震えながら、声を殺して泣く。

 その姿に胸を痛め、かける言葉もみつからず、キーエンスはそっと背を撫で続けた。

 やがて泣き疲れてぐったりとしたエレンテレケイアに気づき、キーエンスはそっと水を差しだした。

 エレンテレケイアは泣きはらした顔を隠しもせず、そっと身を起こす。腹部が痛むのか、かすかに眉を寄せる。そして水の入った銀杯を受け取り、ほんの一口呑み込んだ。


「キース…わたくしの大切なナナイ…。あなたがわたくしのナナイで、本当に良かった」


 真っ青な顔色のエレンテレケイアは、まるで人形のように精気がなく、そして美しかった。


「まだまだ、未熟であると母上に叱られています。エレンテレケイア様のように明るく、朗らかに、お会いする方々とお話しすることは、とても難しいです」


「キースの良いところは、奥ゆかしく、素直なところよ。アーシュと同じく、控えめで…そしてとても優しい」


 にっこり、と微笑む。一瞬で華やぎが生まれる。精気のなさなど、感じさせないほどに。

 微笑んだまま、はらはらとエレンテレケイアの瞳から涙がこぼれた。


「あぁ…アーシュ」


 からん、と音をたて、エレンテレケイアの手より銀杯が落ちる。


「わたくしはどうしても赤ちゃんが欲しかったの…。愛するアーシュに、わたくしの忘れ形見を遺したくて」


「何を言うのです、姫」


 落ちた銀杯がつま先にあたり、乾いた音をたてた。


「わたくしのナナイ…」


 蝋のように白い手がキーエンスの頬に触れた。

 ぞくりとするほどに、冷たい。


「あなたがアーシュの妹でなければ…代わりに抱かれてもらったのに…」


 お母様のように。


 暗く陰った水色の瞳が、キーエンスを見つめ、小さな呟きが響いた。

 わたくしたちは、お父様のナナイとお母様の子。お父様は女を愛せないのですもの。


 脳裏に、エレンテレケイアの声が響く。

 エレンテレケイアの顔色が移ったかのように、キーエンスも青ざめる。


「わたくし疲れたわ」


 緩慢な動きで寝具に身を横たえ、キーエンスに背を向ける。


「お休みなさいませ」


 そう言うキーエンスの声は、震えていた。

 床に落ちたままの銀杯を拾うが、指先が冷え切って強ばっている。

 血が抜け落ちたかのようだ。

 ぞっとして、キーエンスはそっと立ち上がった。

 浅い寝息を背後に聞きながら、部屋を出る。

 音をたてずに扉を閉め、ほっと息をつく。


「待てアーシュ!」


 遠くからアルカイオスの声が聞こえてきた。そして、駆ける足音が近づく。

 振り向くと、アシュトンが怒気を孕んだまま向かってきた。


「お前のせいだ!」


 振りあげられた手をよけることもできた。

 けれど、しなかった。

 ぱん!と頬を打たれ、その勢いで頭を壁にぶつける。


「ヤマ王が永続公約を引換に、姫に求婚してきたぞ。…お前が娼婦のように愛嬌を振りまくからだ!」

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